「地域交通からまちづくりを考える」vol.1 吉田 樹(経済経営学類/地域交通政策、地域観光政策、都市・地域計画)
公開日:2016.7.27
いよいよ、福大ラボ訪問がはじまります! 記念すべき第1回は経済経営学類の吉田樹准教授です。
バスやタクシー、電車などの公共交通を専門に研究している吉田先生ですが、そのきっかけは大学院時代にあるそう。交通とまちづくりの関連は?観光とも関わるの?研究室でお話を伺いました。
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■ きっかけは危機感

Q 先生のご専門は地域交通政策ですが、交通を研究対象にされたきっかけはなんですか?
A 祖父が国鉄(JRの前身)の職員だったり、通っていた保育園が車両基地の近くにあるなど、幼少期より鉄道との接点は多かったですが、まさかそれが研究テーマに繋がるとは思ってもいませんでした(笑) 。転機は大学院入学時です。歩行者空間の整備とまちづくりの関連を研究しようと入学した年に、乗合バスの規制緩和がありました。社会の流れに「このままでは不採算路線は廃止されてしまうのではないか」と危機感を持ち、研究テーマを公共交通に変えました。

■ 「おでかけ」が鍵。公共交通機関とまちづくり

Q 道路は国や地方自治体が作るのでまちづくりと関わるイメージはありますが、公共交通機関は民間企業が運営していますよね。公共交通とまちづくりの関連はどのようなものなのでしょうか?
A 公共交通は人と目的地を結びつける道具だと考えています。マイカー社会のなかで、自家用車で外出する人が多いわけですが、自家用車を運転しない人は公共交通がなければ「おでかけ」できないかもしれません。人口減少や高齢化が進むなかで、「おでかけ」の機会が狭まってしまうことは、まちに人が集まりにくくなってしまい、地域経済にも悪影響を与えてしまいます。一方で、公共交通はコミュニティを守る役割も期待されています。自家用車の移動では、移動中に見知らぬ人と会話することはありません。でも、バスに乗れば車内や停留所で偶然会った人との会話が生まれることがあります。

 「おでかけ」しやすい環境を整備することで、人と人との交流の機会を増やし、まちの賑わいを支えようというのが、公共交通からまちづくりを考える時の大切な視点です。

■ 普段の研究について

Q なるほど。普段はどのように研究をされていますか?
A 自治体と協力して政策を実行し、その影響を長期的かつ定量的に分析をしています。
 また、学会や講演で出張したときは、時間を見つけてはそのまちを歩くようにしています。まちのたたずまいや歩いている人たちの表情を見たり、実際に公共交通を利用したりすることで、地域交通が抱える課題が明確になると思うためです。
 交通とまちづくりを連携させる重要性は以前から主張されてきましたが、実際の現場から捉えた研究はまだ多くありません。どのような要因によって政策の失敗・成功が左右されるのかを検証し、交通政策を考える上でベースとなるモデルを作るのが自分の仕事だと思っています。
 先日foR-Aプロジェクトに採択された研究テーマ『「二層の対流」を創出する「小さな交通」のデザイン』もこの一貫です。最終的には、プロジェクトで得られた知見や全国の事例を踏まえた「目録」に取りまとめたいと考えています。

■ まちあるき観光と公共交通の接点を探る

Q では、吉田先生のゼミでは交通政策の最前線を学ぶことができるのですね!今後の研究展開はどのようなものをお考えですか?
A 公共交通は観光とも大いに関わりがあります。
 これまでの公共交通は、単なる移動手段として捉えられてきましたが、最近は「フルーティアふくしま」や「現美新幹線」のように、乗車体験そのものを楽しむという新しい流れが生まれています。
 こうした潮流を踏まえ、たとえば、点在する観光資源を繋げ、観光地全体の魅力を高めるための交通の可能性を追求すれば、より地域活性化に貢献できるのではないかと考えています。
 そのため現在ゼミでは、県内の公共交通事業者の方々とともに、まちあるき観光を楽しめる公共交通システム作りに取り組んでいます。「おでかけ」のきっかけ作りを探っているところです。

■ 私のお気に入り

Q 最後に、交通政策に興味をもった人におすすめの入門本を教えてください。
A 2冊ご紹介しましょう。
 ○1冊目:『都市と交通』(岡 並木 著、岩波新書、1981) 僕が交通政策に興味をもつきっかけになった本で、今でも時々読み返しています。35年ほど前に書かれた本ですが、いまだに学びがあるのは、日本の交通政策が進んでいないのか、著者の洞察力が優れていたのか。きっと両方でしょう。交通とまちの接点を知りたい人にはうってつけです。
 ○2冊目:『なぜタクシーは動かなくてもメーターが上がるのか』(竹内 健蔵 著、NTT出版、2013)著者の竹内健蔵さんは交通経済学の専門家です。大学1・2年生に入門書として読んでもらうことも多い本です。運賃や規則の決定方法など、専門的なトピックについて読み物形式で紹介されていて、とても読みやすいですよ。


吉田先生のこれまでの研究実績はこちら https://search.adb.fukushima-u.ac.jp/Profiles/1/0000028/profile.html

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「人が生き生きとしているまちが好きなんです。だからこの研究を続けているのかもしれません」と話す吉田先生。
次に電車やバスに乗る際は、街並みとのつながりにも思いを馳せてみてはいかがでしょうか。