「こころと眠りを科学する」vol.03 高原円
(共生システム理工学類/心理生理学)
公開日:2016.9.27
3回目のテーマは「睡眠と心理」、ご紹介するのは共生システム理工学類の高原円准教授です。
最初から研究者を目指していたわけではないという高原先生。
新たな研究テーマにも挑戦し、睡眠と人の意識の関わりについて探求しています。

************************************************************

■研究テーマは流れるままに―数学が苦手な理系志望だった

Q 先生の研究テーマについて教えてください。
A 学部生の頃から、睡眠中の脳波を計測する基礎研究を行っています。寝ている時、物音で目が覚めた経験はありませんか?睡眠という意識を失った状態であっても、私たちは必要があれば音に反応して目覚めることができますよね。その時脳で何が起こっているかを解明したいんです。最近は特に、外界からの音刺激に対して睡眠中の脳がどのような反応を示すのか、被験者自身の言語報告との対応性や仕組みについて研究しています。

Q 学部生から続けているとのことですが、大学進学前から研究者を目指していたのでしょうか?
A いえ、明確な目標があったわけではありません。あまりマジメに勉強するタイプではなかったので、理系に憧れはするものの数学が苦手でした。挫折しかけていたところに、入学してからコースを選択できるという、今の福島大学共生システム理工学類のような仕組みの学部があると知り、進学しました。
 そこで最もやりがいがありそうだと感じたのが「行動科学」でした。心理学の中でも、臨床とは違って「人間の行動がどう予測・説明・制御できるか」を科学的に解明しようとする行動科学に魅力を感じたんです。先生方のお話はみな面白かったですが、講義で脳の話を聞いたのが印象深かったので、生理学系の心理学のゼミに入りました。そうしたらたまたま、ゼミの先生が睡眠の研究で優れた業績をあげて来られた方で、先生の口車に乗せられ、いつの間にか私も、ちょっとダサいと思っていた睡眠の研究をやることになってしまった。ここまで、「こっちの方が面白そうだ」という嗅覚にただ従って、流されてみたらここに行き着いたという経緯です。ただ、その後進んだ大学院で睡眠研究の奥深さに気づき、どんどんはまっていきました。

 ちょうどそのころ、運転手の居眠りが原因で新幹線が緊急停止するという事故がありました。それまで、睡眠を研究するというのはマイナーで、「睡眠?そんなもの研究して意味あるの?」という冷ややかな目線もありましたが、この事故の運転手が睡眠時無呼吸症候群だったことをきっかけに風向きが変わりました。睡眠をないがしろにしていることのコストについて関心が集まるようになり、世間からの注目度もかなり上がったと思います。

■ 計測は体力勝負。得られたデータは情報の宝庫

Q 睡眠中のデータはどのように計測するのでしょうか?
A 実験は被験者が眠っている夜間に行うため、計測中は、原則的には徹夜でデータの変化を確認する必要があります。記録した脳波のデータは、コンピュータで20秒ごとに解析します。他にも心拍数や筋電、眼球の動きなども合わせた変化を1晩あたり約7時間分見ていくので、注意力と根気がいる作業です。1つの研究あたり、2~3か月かけて10人程度に対して複数条件の脳波データを取得・分析しますので、徹夜が続くと結構な重労働ですね。

Q リアルタイムのデータを注意深く、さらに徹夜で観察というのは、かなり負担が大きいですね。
A はい。ただ、脳波データの持つ情報量はかなりのもので、そこからしか分からないことが数多くあるんです。少しマニアックですけど(笑)、覚醒状態から深い睡眠まで変化していく様子はかなりダイナミックで見応えがあります。それに伴う意識の変遷も大変興味深いものです。私は脳波データを見るのが好きなので、大変でも、やりがいを感じていますよ! 

■ 次のテーマは「温泉と睡眠」

Q ほかにもさまざまな研究をしていると伺いました。
A 運動と睡眠の関連を探る研究や、温泉と睡眠の関わりを調べる研究も始めました。運動と睡眠の深さについては、運動習慣が睡眠に良いということは分かっていますので、運動習慣のない人が新たに運動を始めた場合にどのような変化を示すのか、明らかにしたいと思っています。
 温泉と睡眠の研究については、土湯温泉の旅館さんにご協力頂いて行います。良い結果を示すことができればと期待していますので、応援してください。(笑)

■ 私のお気に入り

Q 最後に、先生のお勧めの本などを教えてください。
A 睡眠に関わる本を3冊と、個人的に好きな映画を1つ紹介させていただきます。
 ○『<眠り>をめぐるミステリー』(櫻井 武 著、NHK出版新書、2012)
 ○『睡眠の科学』(櫻井 武 著、ブルーバックス、2010)
 ○『快適睡眠のすすめ』(堀 忠雄 著、岩波新書、2000)
 櫻井先生の本は、睡眠科学にまつわるトピックスがぎゅっと凝縮されているので、睡眠に興味を持ち始めた人へは最適だと思いますよ。3冊目の『快適睡眠のすすめ』は、私の恩師によるベストセラーです。睡眠の仕組みや改善方法が大変わかりやすく解説されていますので、ぜひご覧ください。

 ○『GATTACA ガタカ』(アンドリュー・ニコル 監督)
 生命に関する科学技術が発達していく世界で、人はどう生きるのか、ということを考えさせられる映画です。SFですが、テーマは人間くさく、あまりSFは見ないという人でも大丈夫です。若い学生さんには特に、この映画から熱いものを感じてもらいたいので、薦めたいですね。

■参考_高原先生のこれまでの活動
・ふくしまドクターズTV(2016年5月15日放送)
(http://www.fukushima-doctors.jp/detail/photo.cfm?cl_id=2208)
・福島大学 教員総覧
 (https://search.adb.fukushima-u.ac.jp/Profiles/2/0000143/profile.html)

************************************************************

朝晩も冷えはじめ、布団が恋しくなるこの季節。よりよい睡眠を取って毎日を快適に過ごしてくださいね。
※コメント欄にてご感想をお待ちしております!
※次回の福大ラボ訪問は10月下旬頃の更新を予定しています。
※この記事はインターンシップの本学学生と共同で作成しました。