「罪を償う、その先へ」vol.04 高橋有紀
(行政政策学類/刑事政策・刑事法)
公開日:2016.10.31
4回目のテーマは「更生保護制度」、ご紹介するのは行政政策学類の高橋有紀准教授です。
更生保護制度って何?
再出発を支える制度に関わるのはどんな人たち? 研究の意義とは?
秋の夜長にじっくり考えたい人、必見です。
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■ 東京に行きたい!ジャーナリストになりたい!

Q 研究者になったきっかけを教えてください。
A 元々、法律に興味があったわけではありません。大学進学時にはジャーナリスト志望で、大学も「東京の大学に行きたい」という一心で選びました。
 転機は大学2年の後半に、憲法や刑法の授業を履修したことです。最初はそんなに興味を持たずに履修していたのですが、ちょうど当時、家庭教師のアルバイトで様々な事情を抱えた学生たちと接していたこともあり、「更生できる人を社会で支えていかなければ」という気持ちが生じて、3年生で刑事政策(少年法、裁判員裁判など)のゼミに入りました。同級生には弁護士や検察官になる人も多かったので、自分も弁護士になるか迷いましたが、最終的に研究者の道を選びました。

Q なぜ弁護士ではなく研究者に?
A 弁護士は1回1回の切り替えが重要だと思ったんです。弁護相手の死刑がほぼ確実でも当事者として向き合うというケースを考えたとき、自分には割り切りは難しいなあと。自分が持っている、今の制度の問題点や矛盾点などに気づく力を生かして研究者の道へ進めば、自分の力も活かしつつ、社会の役に立てるのではないかと考えて決めました。

■ 福島とも関わりの深い更生保護制度

Q 得意を活かして職業を決めた、ということですね。研究対象の更生保護制度とはどういうものですか?
A 罪を犯した人や非行をした人などを対象に、社会復帰支援や自立促進をする制度です。対象者と主に関わるのは保護観察官と保護司で、保護観察官は保護観察所で更生保護の責任者として働き、保護司は実際の地域の中から対象者を支援します。
 更生保護施設は、保護観察所から委託された民間の法人によって運営されており、再犯防止のための生活指導、就労指導、宿泊場所・食事の提供を行っています。日本は保護観察官約1,000人に比べ、保護司が約48,000人と圧倒的に多く、保護司が更生保護制度を支えている部分がかなり大きいのが特徴です。私はこの制度について、英国との比較研究を行っています。(※更生保護制度について法務省のサイトで詳しく説明があります。

詳細はこちら
 →http://www.moj.go.jp/hogo1/soumu/hogo_hogo01.html)

Q 福島市には、全国で2つしかない自立更生促進センターがありますが、こちらはどういった施設なのでしょうか?
A 福島自立更生促進センターは、国が設置する更生保護施設の1つです。現在は、刑務所を仮釈放された成人男性数名がここで暮らしています。開設前は様々な懸念から立地の変更などを求める反対の声もありましたが、今ではそうした声は聞かれなくなりました。開所当初から現在までずっと近隣住民と施設との連絡会議が開催され、コミュニケーションの量と質が保たれているためではないでしょうか。動向を見守りたいと思っています。


■ 理屈の面から制度を捉え、判断材料の提供を

Q 研究にあたり気を付けていることはなんですか?
A とにかく人に話を聞きに行くことです。更生保護については、更生プログラムの内容など心理学的なアプローチをする研究もありますが、私は制度そのものの研究をしているので、更生保護制度の対象者に会う機会は滅多にありません。ですが、現在の保護制度の枠組みの中で働いている保護観察官や保護司の方々にお話を伺うことは多いため、直接会って話を聞くことを一番大事にしています。
 余談になりますが、福島大学には、人間発達文化学類に、元保護観察官の経歴を持つ生島浩先生がいらっしゃいます。更生保護は全国的に福祉や心理系の大学や学部で元保護観察官の教員が教えることが多い中、人間科学と社会科学の学類の両方に更生保護の専門家がいて、それぞれに異なる経歴・異なる観点から研究している点は、福大のユニークなところだと思いますね。
 保護観察制度を巡る議論は、賛成論・反対論共に感情的になりがちです。研究者として、理屈の面から制度の良し悪しを明らかにするとともに、中立の立場から事実を提示する、という役割を全うしたいと思っています。 

■ 多様な生き方ができる社会を目指して

Q なるほど。今後の展望を教えてください。
A 多様な進路があっていいと思うんですよね。特に高校生や大学生だと、市役所で働きたいからまちづくりを学ぶ、みたいに学問を逆算する人が多いですが、色んなものを見た上で考えを定めるほうが、実りある勉強ができると思います。「この仕事に就くために役立つ学問を…」と考えすぎるのはあまりよくないんじゃないかな。広く学ぶからこそ広がる視野もあります。勉強したことを活かせる場所は、勉強したら自然と出てくると思いますし、探しながら大学で4年間学ぶというのも有意義な人生です。 
 実際に、3年生の冬頃に「保護観察官になりたい」と思い始めて進路を変える学生も見てきました。色んな生き方ができる社会は、更生保護制度に関わる・関わらないを問わず、誰にとってもいい社会だと思います。そんな社会を目指してこれからも研究を続けたいです。

■ 私のお気に入り

Q 最後に、先生のお気に入りを教えてください。
A お気に入りと言えるか分かりませんが、研究で行き詰まったときにはよく暗い曲を聴きます。長年暗い曲を中心に演奏活動をしているお気に入りのバンドを見ると「彼らもまだ解散していないんだ、私ももう少し頑張ろう」と力を貰えるので。 
 更生保護や司法に興味を持った方には、『チルドレン』(伊坂 幸太郎 著、講談社文庫、2007)をおすすめしたいです。こちらは家裁調査官を扱った話で、更生保護制度を直接描くものではありませんが、再出発を支えるための仕事はいっぱいあると知ってもらえたら嬉しいです。


高橋先生のこれまでの研究業績はこちら
 http://kojingyoseki.adb.fukushima-u.ac.jp/top/details/439

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終始穏やかな口調でインタビューに答えてくださった高橋先生。学内では教職員合同の合唱サークルの代表を務めるなど、研究以外の場でも活躍中です。

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※次回の福大ラボ訪問は11月下旬の更新を予定しています。