「凍みの醍醐味、無限大!」vol.8 中村恵子(人間発達文化学類/調理科学)
公開日:2017.3.10
凍み餅、凍み大根、凍み豆腐。「凍み(しみ)」は東北になじみ深い食品保存方法ですが、この製法、もしかしたら、食品素材を作る上での新たなブレイクスルーになるかも知れません。
今回はそんな「凍み」の虜になった調理科学の研究者、人間発達文化学類の中村恵子教授に迫ります。凍みの可能性をふくらませる先生の研究に、ご注目ください。
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■ 最高の「サクふわ」を求めて

Q 研究テーマを教えてください。
A 電子レンジやオーブンを利用した加熱調理の研究や、若者の食育の研究をしています。それから、「膨化(ぼうか)食品のスポンジ状構造設計」、その派生で「凍み(しみ)操作」(※)の研究も行っているので、計4つの「テーマ」を持っていることになります。一番面白さを感じているのは凍み操作の研究です。

※「凍み(しみ)」・・・寒冷地、特に東北の太平洋側で見られる食品保存方法。食品を氷点下の空気にさらして内部の水分を凍らせた後、昼間の日差しと風で氷を溶かし、乾燥させる。時間をかけて凍結させるため氷の結晶が大きくなり、必然的に、氷が溶けた後にできる気泡も大きくなる。冷凍・乾燥にかける時間の長さの点で、フリーズドライとは異なる。

Q 多岐にわたりますね。ではまず、膨化食品の研究から教えていただけますか?
A 膨化食品とは、食品内部に入れた気泡を利用して生地を膨らませる食品のことです。スポンジケーキやパン、クッキーやパイなど、サクサク・ふわふわとした食感の食べ物が該当します。適切な食感を出す気孔構造を作るには何℃で何分混ぜればよいか等、おいしく作るコツを科学的に説明できるよう研究しています。

Q 空気を混ぜれば混ぜるほどふわふわ感は増すと思っていましたが、違うのですね?
A 違います。例えばシフォンケーキは、柔らかく軽い食感がおいしさの魅力ですね。このふわふわ感は、生地に含まれる泡の大きさと数(密度)が生み出しています。密度を小さくするには、1つ1つの泡を大きくする必要がありますが、さて、泡を大きくするためにはどうすればいいでしょう。たくさん混ぜればきめ細やかな泡が出来ますが、そうしてもいいと思いますか?

Q 混ぜ過ぎると泡は小さく、密度は高くなってしまう。ふわふわ感を生む大きな泡を維持するためには、撹拌はほどほどに、ということですか?
A 当たらずとも遠からずですね。加熱してもつぶれない気泡にするためにしっかり撹拌することは必要ですが、シフォンケーキの場合は卵を泡立てた後に油を入れて泡をつぶし、必要な大きさを作り出します。膨化食品はベーキングパウダーの使用やバター・卵の撹拌で生地に空気を含ませますが、投入の量、タイミング、撹拌の程度で食感が大きく変わるんですよ。

■ 泡で膨らむ、加工食品の幅

Q なるほど。先ほど、凍み操作の研究は膨化食品研究の派生と仰っていましたが、「空気の膨張」と「凍み」の共通点はどこにあるのでしょうか?
A 食品の中に、スポンジ状の構造を作る点です。膨化食品は攪拌やベーキングパウダーの投入し焼くことで、凍み作用は、一度作った氷の塊を溶かすことで食品の内部に空間を作ります。作り方は違えども、最終的に必要なのが泡であることに変わりはありません。そのため、膨化食品研究で培った泡設計への知見は、凍み研究に応用が可能なんです。

Q 先生が感じる「凍み」の魅力を教えてください。
A 伸びしろの多さです。伝統を守る意義だけでなく、新しい食品加工技術としての可能性を感じます。
 通常、食品の乾燥には、食品を薄く切って表面積を大きくする必要があります。フリーズドライ加工が施されたお味噌汁やスープを食べたことのある方は、その具を思い出してください。自宅で材料を切って作るときよりも、薄く小さくありませんでしたか?
 一方で「凍み」は、凍み大根や凍み豆腐のように、表面積が小さくても深部まで乾燥できます。フリーズドライほど製造設備の購入・維持に費用がかからないのもメリットです。
 これまで私の研究では、ジャガイモとにんじんに凍み操作を適用する際の凍結温度や時間・手順を検討しました。他の食品にも凍み操作を適用できれば、今までに無い風味を楽しめるようになるかもしれません。塊のまま乾燥できれば、ごろごろと大きく切った野菜も、歯ごたえを残して乾燥食品に加工できます。この研究成果を元に「お湯で戻す筑前煮セット」などが作れれば、加工食品の幅を広げられますよ。

Q なんだかわくわくしますね!
A はい。ただ、調理科学は英語で「Cookery Science」と言うように、家庭料理の規模が研究対象です。商品として大量生産するとなれば、食品工学など他の分野の専門家と協力する必要も出てくるでしょう。
 自分の役割は、調理科学における基礎研究を積み重ねることだと考えているので、まずは「凍み操作」研究のまとめに注力したいです。

■ 最新科学を食卓へ 更においしい時間のために

Q では、今後は「凍み操作」の研究を更に深めていくと。
A そうですね。それから、料理の「思い込み」を正していきたいです。

Q 「思い込み」ですか?
A ええ。思い込みと言うか、「昔は正しくても、今は調理道具の発達や環境の変化によって誤りになってしまった知識」と言うべきでしょうか。
 かつてお米は研ぐものでした。それは、昔の精米方法では糠を取り除ききれなかったためです。現在は技術が進歩し、お店で売られているお米に糠はほとんど残っていません。そのため今は研がずにやさしく洗うほうが、おいしく炊き上がるんです。
 魚を煮る際、煮汁を沸騰させてから魚を入れる必要もなくなりました。コンロの火力が弱かった時代は、魚の表面を素早く加熱するための大事なコツでしたが、今のコンロはガスもIHも火力が強いため、冷たい煮汁に魚を入れても問題ありません。
 こうした、料理のコツとしてまことしやかに語り継がれている知識を科学的根拠で是正し、より食事を楽しんでもらえるようにしていきたいです。


■ 私のお気に入り

 有名無名問わず、その土地ならではの食べ物をその土地に行って食べることが好きです。
 以前、イギリスで飲んだ紅茶があまりにおいしかったので、お土産に茶葉を購入したんです。ところが、自宅で淹れたらどうも味が違うように感じるんですね。原因は、土地の持つ特徴の違いにありました。イギリスは硬水、日本は軟水です。水が違えばお茶の味は全く違うものになります。空気も、日本よりイギリスのほうが乾燥しています。乾燥した空気のおかげで、喉を潤す感覚をより楽しめたのでしょう。
 料理は五感で味わうものです。町の雰囲気や匂い、音、温度、湿度なども一緒に楽しむと、これまでと違った食事体験が出来るかもしれませんよ。旅行の際には、ぜひチャレンジしてみてくださいね。


中村先生のこれまでの研究実績はこちら https://search.adb.fukushima-u.ac.jp/Profiles/2/0000166/profile.html

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ホワイトデーに向け、お菓子を作る方へアドバイス。
 「コツは『はかること』、これに尽きます。分量、時間、温度、レシピ通りに作れば絶対に成功します。オーブンを使用する場合、ついやりたくなっても、途中で蓋を開けてはだめですよ。頑張ってください。」