「太陽電池の可能性を広げる」vol.13 斉藤公彦
(共生システム理工学類/太陽電池デバイス・材料、太陽光発電システム)
公開日:2018.1.26
屋根にのっている太陽光発電パネルをよく見かけるようになりました。今後、私たちが生活する上で太陽光は大切なエネルギー源となります。今回のラボ訪問は、太陽電池や太陽光発電について研究を行っている、共生システム理工学類の斉藤公彦特任教授にお話を伺ってきました。
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■ 会社員時代から始まった研究の道のり

Q 先生の専門分野と研究内容について教えてください。。
A 太陽電池デバイスと太陽光発電システムの研究をしています。もともと材料およびデバイスプロセスの開発をやっていましたが、太陽電池の普及に伴い、それをシステム的にどのように使用できるかも考えています。しかし、太陽電池の発電効率を上げることは、太陽光発電の発電効率を上げることにつながるので、今も電池の開発は重要と考えています。

Q 先生の研究は太陽電池から始まったんですか?
A きっかけは、以前会社に勤務していた時、入社先の研究開発紹介に「薄膜シリコン太陽電池」とあって面白そうだなと思ったんです。入社後に希望を出したところ、その研究を行っている部署に配属され、研究に携わることができ、そこから私の太陽電池の研究が始まりました。

Q そこから福島大学に勤務するきっかけは?
A 会社を辞めてから産業技術総合研究所の太陽光発電研究センターに勤務し、プロジェクトの現場マネージメント等をやっていました。その後、私の恩師にあたる先生から、福島大学で「地域イノベーション戦略支援プログラム」(※)の一環で太陽電池・太陽光発電の開発をするから、一緒にやらないかと声をかけていただいたのがきっかけです。

※地域イノベーション戦略支援プログラム…文部科学省の東日本大震災復興地域産学官連携科学技術振興事業費補助金によるイノベーションシステム整備事業であり、「再生可能エネルギー先駆けの地ふくしま」の実現を目指し、福島大学、会津大学、日本大学、いわき明星大学の4大学で平成24年度から28年度の間、実施された。

■ 太陽電池の薄型化で広がる可能性

Q 学長表彰を受けられた研究内容について教えてください。

A 研究の目標でもあるのですが、太陽光発電の普及に向けて、高効率・低コストの太陽電池の開発を目指しています。日照時間の多い地域やヨーロッパの一部に比べると、日本はまだまだコストが高いです。低コストにする一つの手段が、太陽電池を薄くすることです。太陽電池に使われているウェハーの厚さを半分にすると、単純にウェハーのコストも半減します。ウェハーは太陽光パネルの1/3のコストを占めているので、厚さを半分にすると全体のコストの約15%を削減できる計算です。また、薄くなることで柔軟性が生まれ、屋根や地面に置くだけだったパネルがデザイン性の優れる建築材料になったり、自動車等にも搭載可能となったりで、応用範囲も広がります。しかし薄くすると光吸収が減り、電流が落ちるとい うデメリットもあります。従来の太陽電池は、片面に+電極、もう片面に-電極という構造ですが、光入射面にある電極部分は遮光してしまうため光吸収ができません。そこで、少しでもこのロスを省く為に、電極をくし形状にして裏面にまとめ、すなわち光入射側の太陽光を遮っていた電極を無くして光吸収率を上げます。この構造は、光吸収率は上がりますが裏面の電極構造が複雑で生産が難しいため、私たちの研究グループでは、それをインクジェット印刷機でパターニングする技術を開発しました。それらを評価していただいて、学長学術表彰をいただきました。これは、研究グループメンバー全員で協力して行った成果です。

Q 現在の研究も太陽電池の薄型化がメインですか?
A そうですね。超薄型化による高効率結晶シリコン太陽電池の開発を開始しました。また現在、高効率化にキーとなる材料として使用されているアモルファスシリコン膜は、形成する際に危険なガスを使用します。このプロセスを簡略化するための新材料の検討も始めています。
 システム面では2つの開発を行っています。一つ目は「独立型太陽電池を用いた情報分散サーバー」です。普通の太陽光発電は、発電した電気を電力会社の電線へ流し、そして需要家へと送られます。これに対し、本開発では情報サーバーを太陽光の独立電源で運転させ、複数のこのようなシステムをインターネットで接続することにより、電力の地産地消と広域の分散処理の組み合わせによって、必要とする情報処理を完結させようというものです。例えば、札幌で作業をしていて悪天候により電力が減少しても、沖縄が晴天で電力が安定していれば、インターネットを介して札幌の仕事を沖縄に移し、業務の続きを行うことができます。このシステムが構築できれば、余剰電力や固定価格買取制度終了後の太陽光発電システムの有効活用をはじめ、防災シ ステムや電力系統が整備されていない地域への情報通信インフラの構築などへの展開が期待できます。 
 もう一つは「太陽光発電システムの劣化診断装置」の開発です。2012年7月から「再生可能エネルギーの固定価格買取制度」が始まり、太陽光発電は他の再生可能エネルギーと比べて、設備が簡便でどこにでも設置しやすいため急速に普及が進みました。太陽光発電は特に可動部も無くパネルを置いておくだけなので、メンテナンスフリーだと思われがちですが、設備点検は必要です。そこで、診断対象となる太陽光パネル(システム)の横に、小さなパネルをそれと同じ方位・角度となるように設置して、その小さなパネルから見積もられる太陽光パネル(システム)の期待発電量と実際の発電量を比較して、太陽光パネル(システム)の故障や不具合を見つけます。現在はこの装置の発展形として、この一つの小さな基準パネルで診断対象の太陽光パネル(システム)だけでなく、その周辺地域の太陽光パネル(システム)の故障・劣化診断ができるよう開発を行っています。スマートフォンでアクセスすれば、自分の家に設置してある太陽光発電量の確認や、パネルの故障・劣化も発見できるようなシステムを作っていきたいです。

■ 私の道標

Q 福島大学と福島県の印象は?
A 大学に勤務することが初めてなので、他の大学はよく分かりませんが、福島大学はコンパクトでアットホームだと思います。職員との距離が近く、顔も知っているので相談もしやすく、気軽に話すことができるので、そういうところはいいですね。
 福島の印象はありきたりですが、緑に囲まれていて自然豊かですね。日本酒が美味しいです。あとは浜通り・中通り・会津地方と地域が分かれていて、その地域性も面白いと思います。場所で言うと南相馬あたりは良いところですよね。自宅が千葉なのと、育った場所が甲子園で浜風が吹いていたので、海があって、なだらかな平地があって、山がある、のどかでいい場所だなと思います。それだけに原発事故があったのは残念です。 

Q 趣味(好きなこと)は何ですか?
A 音楽を聞くことが好きです。クラシック、ジャズ、洋楽からJ-POPまでジャンルは問いません。ラジオでかかって良いなと思った曲はダウンロードして聞いています。
 あとは、これからキャンプを始めたいなと思って道具を一式揃えたんです。この前、キャンプに参加する機会があってすごく楽しかったのと同時に、キャンプはエネルギーの大切さを改めて実感できるものだと思いました。今はキャンプ場も便利になって電気も確保できる所もありますが、基本は電気のない世界で、暖をとるのも、明かりをつけるのも全部火が必要です。人間の生活の原点は木を燃やすことにあるんだなと、電気がいかに大切なものか痛感しました。
 趣味とはまた違いますが、2年半くらい前から復興ボランティアに参加しています。国道288号が開通し、浜通りにすぐに行けるようになったことがきっかけで、月1回のペースで参加しています。草刈りや伐採等の力仕事が多く運動になりますし、被災地域の現状も知ることができます。

Q 先生の尊敬する人は誰ですか?
A 祖父です。私が中学生のころに亡くなってしまい、私にとっては「良いおじいちゃん」というイメージしかありませんが、曲がったことが嫌いで厳格な人だったようです。祖父の死後、祖母から聞いた話ですが、祖父は建設会社に勤務していて、終戦後兵役から引き上げてきた社員を、当時は仕事がなく全員雇うことができなかったそうなんです。そんな中、祖父は自分の給料から家族が生活する最低限の金額をとり、残りを雇えなかった人たちに配っていたそうです。顔も広く、まっすぐな性格で立派な人でした。自分で物事を考えて迷ったときには、祖父だったらどうするか、祖父だったら何と言うだろうか、と考えて行動しています。私にとって祖父の影響は大きく、またそういった軸を1本持てたということは、すごく心強いです。

斉藤先生のこれまでの研究業績はこちら
https://search.adb.fukushima-u.ac.jp/Profiles/1/0000057/profile.html
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「実は、高いところが苦手なんです。だから風力の仕事は無理ですね。メンテナンスで風車の羽の付根(ナセル)まで登らなきゃいけないみたいで、ものすごく怖くて足がすくむらしいです。太陽光でよかったです。」と笑いながら話してくださった斉藤先生。スイッチをつければ明かりが灯ることは、当たり前の事ではありません。電気が私たちの生活にいかに大切なものか、改めて考えてみましょう。