「福島の桃と農業のこれから」vol.14 髙田大輔
(農学系教育研 究組織設置準備室/果樹園芸学)
公開日:18.2.27
福島大学では、2019年4月に開設予定の食農学類(仮称)の設置準備が行われています。今回のラボ訪問は、新学類の設置準備にも携わっており実習の授業を担当する、髙田大輔准教授にお話を伺ってきました。髙田准教授は、果樹、特に桃の研究を行っており、福島の桃についても震災後の影響や放射性セシウム関連のことを調査していたので、気になることを教えていただきました。
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■ 桃との縁

Q 先生の専門分野と研究内容について教えてください。
A 果樹園芸学という木になる果物に関する分野です。果物の栽培から、遺伝子の解析まで、どのように栽培したらいいか、どうすれば甘くなるか等の品質を上げるための研究です。果実を毎年安定的に収穫するための調査や、木を植えてから収穫まで時間がかかるので、いかに早く大きく木を成長させるか研究しています。桃、ぶどう、柿などを調査していますがメインは桃ですね。

Q なぜ桃を専門に?
A 出身大学が岡山大学で、桃やぶどうの調査をしている研究室に入り、そこから桃をメインに研究しています。今は福島なので、桃に縁があるところにいますね。福島は桃の生産量が山梨に次いで全国2位です。栽培面積を考えると生産量を増やすことは難しいですが、品質を上げることを突き詰めていきたいです。桃は他の果樹に比べると経済的な木の寿命が20年と短いです。放っておいても実はなりますが、商品として販売するためには、生産するうえで木の形成や枝の剪定、糖度を高くすることが必要になるので、その調査を行っています。

Q 福島の桃と、ほかの地域の桃の違いはありますか?。
A 例えば、色であれば、関西と関東で見かける桃は違うと思います。岡山では白桃といって皮の色が白い桃を栽培しています。同じ品種でも袋をかけて太陽光を遮ると皮は白く、太陽光を当てると赤くなります。栽培条件が一緒であれば、色が違っても味に大きな差はありません。また、福島ではかたくて赤い桃が好きという方が多いですが、岡山は完熟させてから収穫するので、やわらかい桃が主流です。

■ 安全で美味しい福島の桃

Q 果樹に付着した放射性セシウムについても調査されていますよね?
A 前職の東京大学で震災後に立ち上がった調査プロジェクトに参加したことがきっかけで、それ以来、放射性セシウムが果樹の中でどのように移動するのか調査を継続しています。震災が起こった2011年から福島県内で調査をしている中で、樹皮にセシウムが付着していることが分かりました。調査データを県の果樹研究所に報告したところ、研究所でも同じようなデータが出ていたこともあり、果樹の除染が行われました。除染の効果もあり、現在はセシウムの数値も基準値を下回って問題なく栽培できています。放射性セシウムへの対策としては、樹木の植え替えという方法もありますが、植え替えてから元の収穫量に戻すには約7年かかり、その間の収入もゼロになってしまうので判断が難しいです。

Q セシウムは根から吸い上げるんですか?
A 種から植えたものは基本的に土から吸い上げますが、震災時の状況を考えると、樹木表面にも降り注いでいるので、その影響が大きいと思います。降り注いだセシウムが樹皮から入り、幹を通って果実まで移動したのではと考えられます。ニュースでよく「セシウムが多いのは土の表層5㎝」と言われていますよね。桃やぶどうの根は20~50㎝の深さに多く存在するので、土表面のセシウムを吸っていないとは言えませんが、土からの影響は少ないと思います。

Q 流通に関しても研究されていますが、震災前後で感じることはありますか?
A 放射性セシウムについては、現在は、ほとんど影響はないので、消費者に安全だと認識してもらうことが大事だと思います。販売量・流通量は震災前の2009年頃の水準に戻ってきています。ただ、果物は贈答用として流通することが多いのですが、贈答用の需要は戻ってないですね。1度離れてしまったお客様が戻ってこないのが現状です。 
 福島県では桃に関しては、タイ・台湾・香港に輸出していましたが、震災後、特に台湾・香港はセシウムに関する輸入規制の関係もあり輸出状況は厳しいです。現在、福島県産に限らず日本産果物 の輸出についても調査をしていて、具体的には輸送方法、貯蔵温度、段ボールの性能等の試験を行っています。私は現地に行って、実際に届いた果実の状態や、どういった味がするか(酸度・糖度・痛みの状態等)の調査をしています。福島県でも桃だけでなく果物の輸出量を増やす取組みが始まっています。高価格での販売をもくろむのならば、本格的に始める前に事前に様々な調査を行って、綿密に計画してはと思います。また、輸出先によっては検査証明書が必要になり、福島県産品はそれに加えてセシウムの問題があるので、そこも考えないといけません。

■ 福島の農業を支える、若い力の育成

Q 2019年4月に食農学類(仮称)が開設予定ですが、やってみたいことはありますか?
A 私は学生の実習を担当するので、長期的な実習を行いたいなと思っています。コースによって学ぶ内容は変わりますが、食農学類の学生全員に実習をしてもらいます。将来、栽培に携わる学生も、栽培に関係していない職種を考えている学生も、実習を体験したことで得られるものや、今後役立つことがあると思うので、そういったことを現場で伝えていければいいなと思っています。
 また、研究と農家の方々の間をつなぐような人材も必要だと思います。例えば「未知の成分を見つけました」と言っても、それが何の役に立つのか農家の方に分からないことがあります。その成分は販売するときにチラシに記載して使えますよとか、どのように生産して、どのように売るか、チームで対応できる人材がいれば、農業の幅が広がるんじゃないかなと思います。

Q どういった学生にきて欲しいですか?
A 泥臭いことから実験までできるような人がいいですね。「虫は嫌いだけど挑戦してみたい」「やりたいことはあるけれど他のことにも興味がある」など、間口の広い状態、余白のある状態で来てもらえれば世界が広がると思うんです。ぜひ、「なんでもやってみよう」という気持ちで来ていただきたいですね。

■ 福島の魅力をもっと県外へ!

Q 先生の趣味(好きなこと)は何ですか?
A ゲーム全般と漫画や小説が好きです。音楽だと米津玄師さんが好きで、メジャーになる前から聞いていました。たまに半年に1回くらいですが、クッキーやカヌレ(フランスの焼き菓子)などのお菓子作りもします。
以前はラーメンが好きで食べ歩きをしていたんですけど、最近はあまり食べなくなってしまいました。関東から福島に来てからは蕎麦が美味しいなと思いましたね。 福島駅周辺に蕎麦が美味しいお店があって、たまに晩酌したり、知り合いが来たときに一緒に行ったりします。あとは、歩くことが好きで出張のときに散歩を兼ねてお城巡りをすることもあります。名城もいいですが、本当にお城なの?と思うような場所やお城の痕跡を探すのが好きです。

Q いろんな地域を見てきたと思いますが、福島の印象を教えてください。
A アピールの仕方が惜しいなぁと思います。農産物に関しても、作るところまではこだわっていますが、流通方法が他県と比べると残念だなと思います。桃の話になりますが、こだわって作っているのに梱包の仕方がもったいないなって。海外輸出でも国内輸送と同じ梱包方法なので、輸送時間が長く果実も傷みやすくなり、状態が悪いと廃棄ロスにつながります。1個につき数円、十数円かけるだけで味も状態も全然違うので、もう少し梱包に力を入れてもいいかなと思います。
 あとは、県外アピールにもっと力を入れるべきだと思います。福島で桃を使ったお菓子コンテストを実施していましたが、それを地元のお店で提供してそこで終わってしまうので、もったいないと思います。福島に限ったことではないですが、生産地と消費地が一体となっていて、それでやりくりできているうちは良いですが、これからは県外へもアピールし、外貨獲得のようなイメージで県外からの収入を上げることが必要になると思います。


先生の研究紹介はこちら
http://gakujyutu.net.fukushima-u.ac.jp/015_seeds/seeds_262.html
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先生にかたい桃とやわらかい桃どちらが好きか聞きました。「品種にもよりますね。関西出身なので、どちらかといえばやわらかい方が好きです。」出荷時にはかたい桃でも、東京など、消費者へ届く頃には熟してやわらかい桃になっているそうです。そのため、かたくて甘い桃というのは地元にしか流通しないそうです。かたくて美味しい桃が食べられるのは生産地である福島に住んでいる特権ですね。