おいしさと健康をひとつに」福大ラボ訪問vol.21
平修(食農学類/食品機能学)
公開日:2019.3.26 ※この記事は約5000字です。

「食べ物の栄養が実際に目で確認できたらなぁ…」健康志向の皆様なら一度は考えたことが あるのではないでしょうか。福島のモモ、リンゴ、キノコにあんぽ柿。おいしさはもちろ ん、体に嬉しい栄養もたっぷりありますが、いったいどこにその栄養は含まれているので しょうか。気になるその技術、なんと福島大学にあるんです。
第21回福大ラボ訪問は、農学系教育研究組織設置準備室、そして4月から開設される食農学 類で食品機能学をご担当される平修准教授にお話を伺ってきました。今回はお写真も盛りだ くさん。イメージング質量分析の手法であるNano-PALDIで数々の実績を持ち、多方面でご 活躍されている平先生の類い稀なる魅力をご堪能ください!
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■「見えないものを見る」とは?

Q.専門分野と研究内容について教えてください。
A. 専門分野は食品機能学です。食品の中にどんな成分が入っているか分析する学問です。 最近はそれをもっと目で見えるような形にするために、イメージング質量分析という手法を 使います。例えば、お米のどこに栄養成分がたくさん含まれているのかに関して、ぬかに多 いことはわかっていますが、技術が進んでぬか以外のお米の中にも栄養成分が少なからず 入っていることもわかっています。特に、福島のお米は優秀で、ほかの県と比べて栄養素が お米の中にまでたくさん入っています。このように「見えないものを見る」という研究を 行っています。
※質量分析:物質をイオンにして重さ(質量)を測定する方法
※イメージング質量分析:サンプルのどこに何があるのかを2次元的に可視化する方法
Q.イメージング質量分析の精度はどのくらいでしょうか。
A.どんなものが測れるのかということだと、アミノ酸(小さい分子)からタンパク質(大き い分子)まで測れます。どのくらい細かく見られるかということだと5マイクロメートル(1 マイクロメートル=1ミリメートルの1000分の1)まで、つまり細胞のレベルまで見ることが できます。細胞は10から100マイクロメートルなので、かなり精度が高いです。
 よく分析で「どれだけ少なく測れますか」と質問されるのですが、例えば体に悪いものが すごく少なくても困ることはないので、測る必要はないんじゃないかなと思います。サイエ ンスとしては検出限界というのは大事ですけどね。
一方で農学からは逸れますが、すごく少ないものを測れるということは意味がないとい うことではありません。例えば、病気になる手前の悪いタンパク質などが一個あったとき に、それがどんどん増える前に測れるということでもあります。少ないものを測ることは意 義があることであり、対象によりその求められる範囲が異なるのです。
Q.具体的になにを測っているのでしょうか。
A. お米ですと、必須アミノ酸20種類のうちの2つであるアルギニンとグリシンです。アルギ ニンは肝機能を改善する効果があり、グリシンは寝つきが良くなると言われています。グリ シンは味が甘いんですよ。しかも砂糖とは違うので太らない。そういうものがどこにあるの かがわかります。お米以外だと、この間はあんぽ柿を測りました。干し柿にするとビタミン Aが増加するといったことがわかります。(昨年、平先生はJAふくしま未来さんとのコラボ 企画で生柿とあんぽ柿の栄養を比較する実験を行いました。分析画像は一般の方々にもわか りやすいと好評だった模様です♪)

☆彡実際に最新の質量分析計MALDI-TOFMS「rapiflex」を見せていただきました☆彡 この装置は日本に4台しかありません。東北では福島大学にしかないんですよ。

Q. 前の大学(福井県立大学)から質量分析に携わっているんですか。
A.質量分析は会社員のときから続けています。分析はずっとやっていたんですが、質量分析 を使い始めたのは30歳ぐらいのときです。それまでは医学寄りで、食品機能学として本格的 に質量分析を始めたのは福島大学に来てからです。
Q.今後の研究展開について教えてください。
A.おいしさと健康というものをひとつにしたいと思っています。今までおいしさと健康は相 容れない関係で、おいしいものは食べ過ぎると体に悪かったり太ったり、健康に良いものは そんなにおいしくなかったり、それでも我慢して食べていましたよね。おいしくないものを 我慢して食べていたら心に良くない。「食べる・おいしい」=「幸せ」であってほしいん です。食農学類の食品科学コースではそのような「おいしさと健康をひとつに」というテー マでやりたいと思っています。
Q.食農学類が4月に開設されます が、今後授業で挑戦したいことは ありますか。
A. 食農学類の特徴のひとつが、 フィールドワーク・実習を多くし てあることです。1年生から前期 後期で毎週実習が入る予定です。  実習では近隣の農家の方にも来 ていただきますし、出席できる教 員は自分の担当じゃなくても出ま しょうということになっていま す。3年生になると、7つの地域に 行って、その地域の方々と問題を解決していく「農学実践型教育」も始めます。食農の卒業 生で農業に関わる人たちには、理屈もわかっていて、さらに現場で実際に手も動かせる人材 になってほしいですね。
食品科学コースとしては、ほかの実習では外に行く機会が多いので、僕が主担当となる 実習では実験室で手が動かせるような、化学・生物の本当にスタンダードな実験手法を覚え てほしいなと思います。
それから、本格的な講義というものをやってみたいですね。個人的な意見ですが、授業と 講義は違います。授業はレッスン、講義はレクチャー。授業はみんなに理解してもらう必要 がありますが、講義にはそれがありません。だから大学の講義はいきなり難しくなるんです よね。「理解したかったら自分で勉強してきてね」ということなんです。そのうえで、こち らは最新のトピックスを紹介します。学生さんには講義の意味をわかったうえで受けてほし いし、たくさんゲストも呼びたいですね。
※食農学類は「食品科学コース」「農業生産学コース」「生産環境学コース」「農業経営学コース」の4つの履 修コースが設けられており、平先生は食品科学コースのご担当です。
■勉強の先に何があるのか

Q.今までの研究で大変だったエピソードはありますか。
A. 大変だったことはいっぱいあります。若いときは「嫌だな、合わないな」と思ったらや めたりしていましたが、最近は腰を据えて我慢することも大事だなと思うようになりまし た。
職場は変えていましたが、職種は一回も変えてないんです。ずっと研究職できているので そこはやめたくないなって。僕はおそらく趣味が研究なんです。大学は給料が安いと言われ るときもありますが、それは自分の好きなことを仕事にしてもいいという場所だからだと思 います。民間では自分がやりたくないことをやる部分も多いから給料が高いんですよね。ど ちらも経験できてよかったです。
Q.研究職を意識されたのはいつですか。
A. 中学生のときに博士号というものがあると本で 読んだんです。大学のあとに大学院があることを 知って、いけるところまでいこうかなと思って… 思っただけね!(笑)
 高校に入ってからはあまり勉強しなくなって…で も一念発起して大学院から国立の大学院を受けなお したんです。そこでめちゃくちゃ再教育されまし た。化学の講義では500ページくらいの全部英語で 書かれている教科書2冊を使いました。「テストで どれがでるんですか」と聞いたら「全部」と言われ たり(笑)。すごく辛かったです。
18歳でやる化学の教科書は僕が読んだそれよりも 簡単ですが、18歳で自分がやるべきことに気付い て、寝るのを我慢して勉強している子はやっぱりす ごいなと思いました。あと、1000ページ丸暗記す るよりも、150ページくらいの高校の教科書を丸暗 記したほうが楽だなって(笑)。


それと、大学院の時に、Scientific Law(自然科学の法則)という本を 読んだんです。2頁くらい(笑)。 そこに、「本当の事(真実)は、 一つの側面からみると解らない、 多角的な知識と知恵が必要であ る」って。あぁ、だから、生物も 化学も物理も国語も外国語も…必 要なのかと。もっと、早く知りた かったなぁこの考え、と思いまし た。だから、なぜ沢山勉強するの かということを学生さんが考える必要はないと思います。それよりも将来どうしたいのかが 大事。考えるならそのくらいかな。





■TAIRA’S KAWAII STYLE !


Q.先生のInstagramで拝見しまし たが、食農学類の作業着や白衣は 一般的なイメージと違っておしゃ れですよね。なにか考えがあるの でしょうか。
A.あります!見た目というのは本 当に大事で、今の幼稚園・小学 校・中学校・高校ってすごく綺麗 なんです。例えば小学校では壁を 取り払ったり、壁の色を白じゃな くて黄色にしてかわいくしたり。 「かわいい」とは気持ちが落ち着 いたり、良くなったりということ だと思うんです。子供が小さいと きはそういうところに配慮してい るんですよね。
 日本はどんどん年齢上がるにつ れて汚く…底辺が大学ですよね (笑)。それを良しとしているとこ ろもあるし、全く無頓着でもそれはそれでいいんですよ。ひとつのことに打ち込んでいたら 壁の色なんて気にしないという考えもありますし。


でも、綺麗で文句はないですよね。感性は大事ですし、 理系とはいえ綺麗なものを見ておかないと世の中に出た ときに困ります。なかなか理解は得られませんが、僕は そういうところにこだわって、研究環境も素敵なものに したいと思っています。ちなみに作業着や白衣、ポス ターのデザインも全部僕がやっています(!)。
 研究室もカフェのような内装を目指しています。 Cafe*Laboratory(笑)。その中で最先端の研究をするのが 心地いいので、僕もよい刺激になります。これで研究し ていなかったらただの遊んでいる人になってしまうの で、「ちゃんと研究しなきゃ」とモチベーションのひと つにもなりますね。
Q.ギターがご趣味だと耳にしました。
A.運動も好きですし、昔はバンドをやっていました。  ギターはずっとやっています。女の子にもてたくて始 めたんですけど、教えてくれた人が教会の人で、結局そ のまま聖歌隊にさせられました(笑)。オルガンのない日 はギターで聖歌を弾く担当でした。
日曜日は研究室で誰もいないの を確認して弾いています。弾くの はミスチルで、最近は backnumberやRADWIMPSも面白 そうなのは弾いています。僕は ボーカルとギターなのですが、ミ スチルしかやらないと言ったら誰 も組んでくれない(笑)。でも三菱 化学生命科学研究所時代に一人だ け組んでくれました。
土日も研究室にいます。福島に きたばかりで友達もいないの で…。近所に競馬場があるので一 度行ったことがあるんですが、綺 麗な競馬場なのに怒っているのか 喜んでいるのかわからない「オ ワァー!!」と叫んでいるおじさ んたちがたくさんいて、ちょっと 怖かったです(笑)。






平先生のこれまでの研究業績はこ ちら →https://search.adb.fukushima-u.ac.jp/Profiles/2/0000187/profile.html

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インタビュー後に「ものすごく怒られた動画があって…」とかわいらしいローズゴールドのMacbookを取り出し た平先生。秘蔵の食農学類動画を見せてくださいました。続編も絶賛構想中!?
https://www.youtube.com/watch?v=VFehupxC2KM (非公式PR動画)
https://www.youtube.com/watch?v=Sban_lvlTBU (非公式CM1)
https://www.youtube.com/watch?v=S5t6mYY-F1w%E3%80%8D (非公式CM2)
※登場人物はフィクションです。特定の人物・団体とは一切関係がなく、中傷する意図もございません。
また、先生のミスチル弾き語りも聴かせていただきましたが、まさに圧巻の歌声。お聴きになりたい方はぜひお 問い合わせを!