「『食と農』の未知なる可能性」福大ラボ訪問vol.22小山良太(食農学類/農業経営学)
公開日:2019.9.9
令和になって早4カ月、今年度の福大ラボ訪問がいよいよ始まりました。新年度から食農学 類が開設され、福島大学としても新たなスタートになりました。 今年度の第1回目は食農学類の小山良太教授です。大学時代、この道へ進むことになった きっかけやこれからの夢など、色々なお話をお聞きしました。
************************************************************

■これまでの研究について

Q 先生の研究内容について教えて下さい。
A 私は農学部の農業経済専攻で、特に関心を持ってやっていたのが産地づくりについて、です。よく「地域づくり」や「村づくり」という言葉があるように、中山間地域や少子化高齢化、担い手不足、耕作放棄地など課題は色々あります。地域でどうやったら持続可能な空間が出来るか、中心市街地だったら商店街を如何に活性化するのかなど、大きく言うと地域 政策について研究をしてきました。
その中でも農産物に付加価値を付けて、いかに稼ぐ構造を地域内に作って、持続可能な地域内経済循環に繋げるか、その基盤となるシステムを地域営農システムというのですが、産地づくりとその為の地域営農システム化というのが私の研究テーマです。

Q 具体的にはどういった取組みをされてきましたか?
A 最初に取り組んだのは南会津町伊南地区、以前の伊南村です。村の特産品のアユや地場産品の南郷トマトを中心に、人口1600人の小さな村から30万人の福島市まで毎週末運び、福島市のパセオ通りにある屋台村に出店しました。地域の活性化をはかりたい伊南村や屋台村を運営している福島市商工会議所などと連携を取りながら、学生達自らが商品の仕入れ、調理、接客、経理と経営の全般に携わっていくという取組みでした。
 あとは「街中マルシェ」といって、福島県内の農家の方々の農産物をマルシェという形で販売しました。福島の市街地や東京都内でもおこなったのですが、農産物の販売だけでなく、村で取れた原料でジャムなどの加工品を作ったり、その加工品を使って商品開発をして、最終的に調理することで「こんな商品が出来ますよ」という、いわゆる6次化産業の工程を見て分かる形にしました。
 震災後は、生産者と消費者双方の不安を解消するために、正しい情報の発信や、生産者の思いを学生が間に立って消費者に伝えていこうという取組みを継続してすすめてきました。
Q 最近ですと、サマンサタバサと福島大学のコラボ企画が話題ですよね。若い女性がつい手に取りたくなるような「カワイイ日本酒」作りを目指すということですが。
 ※サマンサタバサ:若い女性向けのバッグなどを販売しているファッションブランド。
A 私のゼミの「おかわり農園」プロジェクトでは毎年、学生が自分達で米を育て収穫し、食味コンテストや日本酒作りも行っています。日本酒作りについては、生産は自分のところでやりますが、人間発達学類の先生達にデザインや書体を依頼して、経済経営学類の学生達にはプロモーションをお願いしました。色々な人達が参加・協力して出来上がったコラボ企画の日本酒です。福島大学の生協でも売っていますが、けっこう売れていますよ(笑)
サマンサタバサとの企画では、食農学類メンバーと協力し、米作りだけでなく日本酒の商品コンセプト、パッケージデザイン、販売方法なども一緒にすすめていく事になっています。
お互いが全くの異業種で、通常だったら考えられない珍しいコラボなので、新聞やメディアなどにも取り上げていただきました。
参加している学生達もこの企画に喜んでいますし、サマンサタバサもそうですが、現在は沢山の企業がアグリビジネスに参入しています。

■アグリビジネスはビッグチャンス!
Q アグリビジネスやそれに興味のある学生についてはどうお考えですか?
A 農業は衰退期だと言われますが、アグリビジネスって実は今が転換期なんです。転換期は色々なビジネスが生まれたり、一気にお金持ちになれるチャンスが増えます。一つのビジネスモデル、おそらく今だとITやAIなど、どこか一つ技術を確立したら、かつてのGoogleやAmazonのようになる可能性だってある。こんなチャンスは100年ある中で数年しかないんですよね。車やスマホ、ゲームは無くても生きていけますが、食べ物は絶対必要不可欠です。生活上、無くてはならないので、そこで何か、まだ確立していないものに目を向けて、新しいビジネスをモノに出来たらすごく大きいと思います。
 今まで、私の周りで農業を学びたいという学生は、バリバリ都会で働くというよりも、むしろ農村でのんびり過ごしたいとか、あるいは有機農法みたいなものを学んでスローライフしてみたい、などといったビジョンの学生が多かったんですけれどもね。
Q それはそれで良いんですけどね。
A それでも良いし、でも、バリバリ稼ぎたいというのも良いと思っています。農学をとおして、多様なビジネスの可能性を見つけ、アグリビジネスへのアプローチをかけていってもらいたいと思います。


■研究者としての地道な努力

Q 他にも研究されていることはありますか?
A 特にこの8年間は、原発事故による農業関係への影響が大きかったので、県北地域の全農地11万筆(約6000ha分の田畑)の測定をして汚染マップを作りました。地域の方々から、測ってほしいと私達にどんどん依頼が来まして。

Q 11万筆!ちょっと途方もない数というか、広さですね。
A 測定には全部で2年半もかかりました。初めから11万筆と分かっていたら、若しくは、調査設計するファンドについても、いくら予算があるのかと考えたら絶対やらなかったと思います。当時はとにかくお金も何も無いけれど、始めれば集まるんだろう、という感じで始まりました。そうしたらやっぱり、私達がやっているのを見て企業や農業団体等から賛同いたき、多くの援助をいただくことが出来たんです。
そういった、まずやってみようというところは、研究も企業もすごく似ているなと思いました。
 それから米の全量全袋検査がまだ行われていなかった時に、どうやって市町村単位で検査体制を作ってすすめていくか、ということも行いました。
当時の検査方法は曖昧な部分が多く、本当に安全なのか?と疑問に思うところがありました。ですが、除染についても曖昧なやり方があったところを、研究者達を中心にエビデンスを揃えたり、バラつきを整えたりして色々な制度が変わってきました。そういう意味では、 原子力や農業などの有効な政策を作るためのエビデンス、多角的なエビデンスを作る作業というのを私自身重要と考え、震災後はそういった研究もおこなってきました。

■憧れと現実、そして新しいフィールド

Q 福島大学に来る前はどちらに?
A 2005年に福島大学に着任してから今年で15年目なのですが、その前は北海道大学に13年いました。その時は北海道の東南にある日高地域で、馬の産地作りというのをずっと研究テーマとしていました。

Q 馬がお好きだったんですか?
A 元々は高校生の時に獣医になりたくて、北海道大学理三類という、生命科学系に入りました。でも実際は、解剖も出来ないし注射も苦手で(笑)意外と臭いもすごいし、気持ち悪くなってしまって、動物実験が全然出来なかったんです。理系で入ったけれど、実験が全く無い分野でなければ、この先、大学を続けていけないというぐらいでした。獣医に憧れて入ったはいいが、これからどうしようかと思っていた時、「とにかく実験の無い分野で単位を取て卒業しよう」と軽い気持ちで選んだ農業経済の授業が意外に面白かったんです。 僕の先生も産地をどう作っていくか、という様なことを教えていたし、研究室の外にどんどん出ていく様な方でしたので。
 北海道は当時、収穫できる米の品種が限られていて、その頃に今で言う「ゆめぴりか」「ななつぼし」など新しい品種の産地を作ろうと、ちょうど熱い時期でした。北海道大学と若い農業者が一緒になって新しい品種を作り、新潟のような米の産地を作ろうと奮闘していました。実際、今では新潟を超えるぐらい大きな産地になりましたよ。あれから15年経って、サークルとは違い、実際に産地が出来、商品を作って世界に持っていって、という発想はすごく面白いと感じました。

■メリハリな休日

Q 休日はどのようにお過ごしですか?
A 一番の趣味は釣りなんです、実は。キャンプもしますしアウトドア系が好きです。Youtubeで、ひろしチャンネルなども見ていますよ(笑)。世代も同じぐらいなのですごく面白いです。
皆でキャンプしながら釣りをして、釣った魚を料理して食べたりしています。福島のお店を開拓して、その店で釣った魚を食べたりすることもあるのですが、そういう時に色々な企業の方と知り合って、今やっていることに繋がっているという感じです。
色んな地域、国に調査研究等で行く機会も多いので、海や山に行ったりすることもあります。でもあまり無理なことはしないです。翌日に疲れが残るくらいまで遊んでしまうと仕事に差し支えるので。まあだけどメリハリをつけて、休日はガッツリ遊びます。















■農業とアート
Q 今後の食農学類に対しての夢や、目標などがあれば教えて下さい。
A 今後の夢としては、食農学類に農業音楽と農村デザインを作りたいです。これからの農学はアートとか農業芸術と言ってもいいかも知れませんが、デザインに関わる分野がもっと重視されてくるだろうと思っています。
日本の水田はアートと言われています。あんなにビシッと揃った水田は世界中にあまりないし、他の国と比べるとすごくアーティスティックだと言われているんです。あと、つや姫という山形の米がありますが、米袋は有名なデザイナーによる、とても心に残るデザインになっています。米のパッケージで覚えていることは何?と言えば、つや姫、と いうぐらいインパクトがあって人気です。
 これからは商品の品質はあまり変わらなくなるので、デザインやストーリーだとかをどうやって見せるか、インスタなどもそうですよね。“刺さるもの”ってデザイン性が良いとか、タイムリーだったりとか、そういうところじゃないかと思っています。

小山先生のこれまでの研究実績はこちら http://kojingyoseki.adb.fukushima-u.ac.jp/top/details/147
************************************************************ 初取材で、実は緊張気味のスタートだったのですが。 先生の農業経営への熱いビジョンについてお聞きするうちに、よーし自分も頑張ろう!とや る気をいただき取材が終了しました。
研究の裏テーマなることまでお聞きできたのですが、ここで紹介出来ないのが残念です。 どうしても気になるという方は、直接先生にお聞きしてみてはいかがでしょう!?