「科学の力で農業をサポートする」vol.24 深山陽子(食農学類/蔬菜・花卉園芸学、園芸環境工学)
公開日:2019.11.1
変化の多い気象環境やIT化の波の中、農業は日進月歩で変化しつづけています。今までになく糖度の高い果物や、美味しい野菜が食べられるのもそういった進化のおかげですよね。
今回の福大ラボ訪問は、作物の品質・栽培環境などについて研究している食農学類の深山陽子准教授です。前職(他県の農業技術センター)、福島の農家や食農学類のことなどを色々伺ってきました。
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■ 蔬菜(そさい)・花卉(かき)とは

Q 先生の専門分野は何ですか?
A 蔬菜・花卉を栽培対象として研究をおこなっています。
 学問の世界では野菜の事を蔬菜と呼んでいました。野草・山野草・山菜の様に自生するものと区別するために蔬菜という言葉が使われていましたが、最近は山菜も栽培したりしますよね。もう区別しづらくなってきたので野菜という言い方に変わってきています。
 教科書では「野菜園芸学」という言葉を使うことが多くなっています。「花卉」については基本的には、食べない・愛でるもの、つまり鑑賞するための花が当てはまりますが、鑑賞樹・鑑賞作物・鑑賞園芸学という言葉が最近はよく使われています。

■ 科学の力を活かした施設園芸

Q 研究内容について教えてください。
A 野菜などを栽培するにあたってどういうものが美味しいか、美味しいものを作るためにはどういう栽培方法が良いか、また収穫量を高めるためにはどうしたら出来るかという様な事を研究しています。


 例えばイチゴだと、イチゴは果物でなく野菜に分類される作物なのですが、同じ品種を同じ時期に出荷したものでも今日買ったものと昨日買ったものとでは味が違うということがあるんですね。味の違いが生じる要素としては栽培の方法や場所・肥料のやり方・温度管理の仕方などがあります。そこでイチゴの一部分を温めたり、人工的に光合成を調節して、実の糖度や水分などの変化から品質がどうなるかというシステムを作り、メカニズムを調べたりしています。
 それから最近の福島県だとトマト・キュウリが有名ですが東京などで美味しいと評価が高いというのは、それなりの理由があるんです。農家の皆さんは経験則で分かっていらっしゃいますが、科学的にちゃんと解明していく必要があると思っています。


Q 他にはどんな作物の研究をされていますか?
A 他の主なものだとトマト・キュウリ、花だとトルコギキョウ、小菊などがあります。現在はトマトの生理障害(※)について、どうして症状が出てしまうのか原因が分かっていないもののメカニズムの解明について取り組んでいます。
 ※生理障害=栄養分や温度の過不足などによる生育不具合

Q 具体的にはどの様な事ですか?
A トマトには水疱症という生理障害があり原因は今も分かっていません。
 この現象は1970年代頃からアメリカの研究者によって報告されていましたが、日本ではそれほど報告が出ていなかったので問題として顕在化していませんでした。ですがここ数年は品種改良をし、トマトの色々な能力を追い求めている状況があり、それとあわせて新たに問題となる生理障害が増えてきています。
 品種改良等ではこれまで、植物の水の動きについてはあまり着目されていませんでしたが、どうやら地下の根の部分と地上に出ている茎・葉の部分との水分割合の変化なども影響しているようだと分かってきたのです。本当に品種による生理障害の発生なのかどうかという事を調べていて9月の学会でも発表しました。




 この水疱症はトマトに水をやらないところから急に水をたっぷりあげたり、ハウス内の湿度の違いで発生の仕方が違うのです。トマト内の水の動き、動態を表すものとして「水ポテンシャル」というのがあるのですが、確実に水環境・水分動態、水ポテンシャルが症状に影響していると考えています。もしこれらが明らかになれば、生産現場に「こういう水のやり方をすれば水疱症は出ませんよ」といった事を提案できると思うのです。
 私は元々、県の職員だったということもあってか、生産現場で農家さんからお聞きした課題を基礎研究に持っていってメカニズムの解明をして、またフィードバックするという事に興味があります。


Q 前職の県の農業技術センターと現職では研究・調査でどういった違いがあるとお考えですか?
A 県と比べるとやはり大学は大学でないとできない研究というのがありますね。県の試験場は時間がかかるメカニズムや生理生態の基礎的な部分の解明というところまでなかなか踏みこむことができません。
 例えばある肥料をどのぐらい施用したら良いか、といった問い合わせに対する答えとなるような研究は県では多く行われています。その肥料自体の基礎的な特性について調べたり、もう少し踏み込んで長期的な吸収特性をみる、などといったことについては、やはり大学の仕事になると思います。
 世界に通用するような技術はどこでも研究できますが、県と大学では役割が違うのではないかと感じています。県ではその時々の農業のニーズやトレンドに沿ってすすめていくことも多く、現場にフィードバックするまでの時間が短いので、そこは県のすごく良いところだと思っています。

■ これも福島の農業の特徴?!

Q 昨年、福島に引っ越していらっしゃいましたが、福島の農業はどの様に感じますか?
A 福島の農家さんは勉強熱心で技術が高い印象があります。農業関係者の方を対象に講習会を行ったりするのですが、技術をちゃんと守らなきゃという意識の高い方が多いと思います。
 また、出かけている時に露地の作物を色々見ていると、きちんと作っていらっしゃるなと思いますし、ハウス物もよくできているなと感じます。ただ福島の農家さん、皆さんワリと大人しいですよね。こちらから尋ねていくと皆さんの思っていることを聞かせていただけるのですが、講習会では皆の前で手を挙げて発言するような方はあまりいないです。以前、働いていた地域には話したくてしょうがないって方が一人か二人は必ずいましたから(笑)
 それからJAの指導員さんのレベルが高くてビックリしました。レベルが高いというのは現場を周ってよく承知しているからだと思いますが、どこの畑は誰が所有していて何を栽培していて、という事を若い指導員の方でもとてもよく把握していらっしゃると思います。

■ 小さい時から好きだったこと

Q 蔬菜や花卉園芸を専門にされたきっかけは何ですか?
A 小・中学校のころから何か植物を育てていることが多く、中学の時の自由研究では二酸化炭素を増やすことで生育が良くなるかどうかという「二酸化炭素施用」などについて調べました。

Q 因みに、その時選んだ作物は?
A 家の台所にあった大豆です。自宅でカゴを作ってそこに豆を蒔いて芽を出させて、二酸化炭素源としてドライアイスを買ってきて・・・といった具合です。どのぐらい育つのか重さも量って観察記録をつけていました。

Q 自由研究にしてはかなり本格的ですね!
A あまり意識していませんでしたが、今思えば物心ついた時から好きな分野だったのでしょう。家にあるものを使ってゴソゴソやっていましたので、親は「何かやっているな」と思ったでしょうが、でも黙って見守ってくれていました。

■ 食農学類ならでは

Q 食農学類が4月にスタートしましたが、ご苦労されている事などおありではないですか?
A 農業実習ですと、どうしても天気に振り回されることがありますね。今年の前期はまあまあ天気に恵まれたのですが。
 例えば「今日は種まきやります」といっても雨が降ったり天気が悪いと畑に入れないんです。実習が週に1回なので、その日が雨だと種を蒔くのが1週間ずれ込んで収穫まで全部ずれ込みます。この作物だったらいつまでに蒔かなくては、という時期を逸せないものが沢山あるのですが、もう全部晴れの日を前提としてスケジュールは作っています(笑)
 今年の農場実習では、トマト、キュウリ、ナスなどを作ったのですが、苗を植える時に畑が水浸しで植える実習が出来ませんでした。でもどうしても植えなきゃいけないから空き時間に教員職員で、全部植えて・・という事がありました。

Q 食農学類の学生について思うことをお聞かせください。
A 学生さん達については皆、すごく熱心ですね。よくメモも取っていますしレポートもちゃんと書いてきます。レポートを読んでいるととても意欲的な学生はこちらが求めている以上のことを自分で調べてまとめたものを添付で出してきたりします。そうやって4年間勉強したら相当力になると思います。
 学生達がどういう風に何を感じて、何をすくい取って覚えていくのかというのは試行錯誤も多いと思いますが、見ていきたいです。それと学生全員まだ1年生なので、来年、再来年と後輩も出来て4年生になって就職していく頃にはどの様な感じになっているのか、期待しながら見ていきたいと思っています。


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取材途中、尊敬する人についてお聞きしました。特にそういった人は誰も・・・・と言いつつ、しばし考えてくださいました。
「自分のライバルは自分だなあと思いますね。自分に勝たないと成長していけない、誰、という他人じゃないんだろうと思いますね」と話された深山先生。柔和な話し方や雰囲気の中に、努力家で“ブレない”芯の強さが垣間見えたのが印象的でした。