「人事行政論の発展に向けて」vol.26 林 嶺那(行政政策学類/公共政策論、行政管理論)
公開日:2019.12.27
公務員と聞くと皆さん、どの様なイメージをお持ちですか?自治体の組織やシステムは当たり前にあるものですが、そこに疑問を持たなくなっている人も案外多いのではないでしょうか。 今回のラボ訪問は公務員の行動や認識について研究している、行政政策学類の林嶺那准教授に、人事システムと能力観との関係を中心にお話を色々伺ってきました。
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■ 人事行政論という分野

Q 先生の研究分野と研究テーマについて教えてください。
A 行政学という行政組織の作動や機能などを研究する分野が広義の専門です。その中でも人事行政論というのが狭義の専門で、公務員の態度・行動・認識の解明を研究テーマにしています。
 行政改革等で政府のスリム化が進められているとはいえ、政府は予算規模も莫大で、我々の生活に非常に強い影響を及ぼす主体です。そうした政府の活動を支えているのが公務員です。そうした公務員の皆さんがどのような態度・行動・認識をもっているのか。その態度・行動・認識がどういった政策に結び付いているのか。それらを明らかにしたいと思っています。

Q 今の研究テーマを始めようと思ったきっかけはどういった事でしたか?
A そもそものきっかけは大学院にいた時、社会人の大学院生がいらっしゃったことです。その方が、どういう給料か、どこに異動するとか、誰が昇進したとかしないとかいう人事の話をよくしていました。少なくとも私が勉強を始めた時には、人事行政論は日本の行政学の中でそこまで高い関心を集めているテーマではなかったのですが、実際の公務員の方が人事行政に関心をもっていて、そこが面白いなと感じて。それが最初のきっかけですね。

■ 興味深い!自治体ごとの能力観のタイプ

Q 具体的にはどういった取組みをされていらっしゃいますか?
A 今までやってきた主要なテーマは自治体の人事行政の歴史に関する研究です。日本の自治体の人事の仕組みの多様性を明らかにするため、昇進の仕方、採用・配置の仕方や研修の仕方に着目して、日本の自治体の比較歴史研究を行ってきました。
 これまでの通説的見解は、経済学的なアプローチに基づいて、所与の環境の下、人事の仕組みは組織のパフォーマンスを上げるために合理的にデザインされているんだ、と考えてきました。個人も組織も、それぞれの損得を自律的かつ合理的に考えて行動するだろう。その結果、人事の仕組みは合理的にデザインされるだろうと。経済学者の小池和男先生のお立場ですね。
 これに対し、私は社会学的な立ち位置から、人事の仕組みは必ずしも環境に対して合理的なものではなく、それぞれの歴史に強く規定されていると考えました。「これまでもそうしてきたよね」という歴史的要因が強く作用している、と。
 ではなぜ歴史が重要な意味を持つのか。それはそれぞれの組織でこれまで共有されてきた能力観、いわば「できるやつ」観が、個人に植え付けられ、そうした能力観、「できるやつ」観をもった個人が人事の仕組みを支持するという、循環が起きているからではないか。これは、教育社会学者の竹内洋先生が主張されている考え方で、「能力の社会的構成説」と呼ばれる考え方をベースにしています。これまでの経済学的アプローチが、個人の自律性を強く仮定しているのに対し、このアプローチは、個人の考え方が組織によって操作される可能性を強く認めます。
 こうした能力の社会的構成説に基づいたほうが、自治体の人事の多様性をよりすっきり説明できる。これが私の立場です。

 私が注目したのは、大阪市役所と東京都庁と神奈川県庁という三つの大規模な自治体です。同じような業務を担う、同じ地方公務員法の下で規律されるこれらの自治体ですが、面白いほど「できるやつ」観が違う。
 まず大阪市役所では、大卒か高卒かという採用時点での学歴がとても大事なシステムを採用してきました。大卒が幹部候補のエリートで、高卒はノンエリートという仕組みですね。組織の幹部が「できるやつ」によって占められているとすれば、大阪市役所においては大卒が「できるやつ」です。これは1930年代からずっとそうでした。
 東京都庁はというと、入庁してからの試験がとても大事な仕組みです。30歳前後で管理職試験というのに受かったらエリートとして扱われて、幹部になるチャンスがかなり開かれるというシステムです。そうした試験を突破できる人が「できるやつ」ですね。能力の社会的構成説に基づいて厳密にいえば「できるやつ」が試験を突破するのではなく、試験を突破したことで「できるやつ」と組織の中ではみなされる、ということですね。
 最後に神奈川県庁ですが、この自治体では学歴がほとんど意味を持ちません。高卒や大卒を問わず、採用した人の中から徐々に幹部を選んでいくというスタイルですね。昇進に関する試験はありません。1960年前後に入庁された方々のデータを退職まで調査しましたが、大卒でも高卒でも昇進の違いがほとんどなく、むしろ高卒の方のほうが副知事等の幹部にまで出世されていました。

Q 人事の仕組みでこんなにも違いがあるというのがとても意外ですね。
A 人間をどう見るのか、という見方が組織ごとに全然違うんです。重要なのは、そうした「できるやつ」観を支える制度の組み合わせがある、という点です。これが竹内先生に対する私の主張の独自性ですね。例えば、採用時点で「できるやつ」がはっきりしている大阪市役所では、大卒は本庁に集中的に配置され、丁寧な研修が長期間行われます。他方、神奈川県庁では、採用時点では「できるやつ」が誰かわかりません。ですから、大卒であろうと高卒であろうと、本庁にも配置されますし、また本庁と出先の交流も活発です。研修についても、高卒だろうと大卒だろうと内容に大差ありません。
 昇進の仕組みに、採用・研修・配置というほかの人事の仕組みががっちり組み合わさることで、職員は「できるやつ」観を叩き込まれますし、また、そうした「できるやつ」観に基づいて、今ある仕組みを支持するようにもなる。これが私の主張の概要ですね。

Q どんな調査方法で統計やデータを取っているのですか?
A 歴史研究のほかに、アンケートや実験的な手法も使ったりしています。例えば最近は東京都の特別区の方々とお付き合いがあるので、そこで心理学的な手法を用いた調査を行っています。
 公務員の皆さんの認識がどういったものかを明らかにするために、Q方法論と呼ばれる手法を使いました。
 具体的には、カード並べをしてもらい、その人の仕事観を調べます。カードに書かれている内容を重要なものと重要でないものに並べてもらい、重要なものを右に、重要でないものを左に、どちらでもないカードは真ん中に置いて下さいと指示を出して、だいたいピラミッドの形にしてもらいます。その結果を見て、公務員の皆さんの仕事観を調べます。
 データ分析の結果、人間関係を重視するタイプや、仕事に責任を持つ職責タイプなどがいらっしゃることがわかりました。後はちょっと少数派ですがかなりアクティブなタイプもいました。総じて、リスク回避的だったり、安定志向であったりしましたね。
 今は基礎調査で、どういった仕事観をもっているのかといったところだけですが、今後はその結果を元に内部で評価されるのはどういったタイプの人なのかも調べていきたいです。また事務職の方を対象にした調査だったので、福祉系や技術系の方々にも調査対象を拡大してみたいですね。

Q 歴史研究というと、どのぐらい遡って調べていらっしゃいますか?
A 博士論文で書いたのは戦前の昭和初期からです。
 第二次大戦後、法体系がガラッと変わり制度の大きな改変があっても、能力観は大きな変動はありませんでした。例えば、戦後改革で中央官庁では帝大卒を優遇するシステムは殆ど変更されませんでしたが、大阪市役所も似ていて大卒をエリート扱いする仕組みは変わりませんでした。


■ 成果の活用にむけて、課題と目標

Q 今後、先生の研究成果は自治体でどの様に活用していきたいですか?
A 今のところ、自治体へ活かすというのはハードルが結構あるなあと思っているところです。公務員の皆さんに役に立つと思ってもらえる成果を出さないとだめですね。そのためにも、公務員の皆さんが直面している問題や課題を傾聴し、公務員の方々にとって役に立つものを提供していきたいです。そうすることで、調査のための協力も得やすくなると思っています。

Q 福島大学は公務員志望の方も多く、県内の色々な自治体にも卒業生がいると聞きますがその辺りはいかがお感じですか?
A 公務員志望者の方が多いというのは私にとって研究しやすい環境です。どういった人が公務員志望なのかにも興味がありますし、彼らが公務員になった後、組織社会化といって組織に馴染んでいくプロセスを調べるというのも福島大学だとやりやすいですね。そうした意味で、私にとっては魅力のある良い場所です。興味のあるテーマはたくさんありますが、完成しなかったら意味が無いので1つ1つ実績を積み上げていきたいです。でも研究への欲求は止まらないですね(笑)

Q 仕事をされる時に心掛けている事などはありますか?
A 実証的な人事行政論を日本で確立するんだという事は常に思っています。人事行政論の範囲は広いですが、自分のイメージする理想に少しでも近づけるように頑張っていきたいです。


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林先生にとって福島大学は、自然も綺麗だし都心に行くのも便利で、とても良い環境だそうです。そんな福島での好きな食べ物についてお聞きしました。
「やっぱり桃が甘く、みずみずしくて美味しいと思いました」とのこと。よく買いに行くところは色々サービスしてくれるし、おまけで何個も入れてくれたりするんだそうです。
来年の旬の時期も待ちきれませんね~?!