「スポーツで地域に活力を」vol.11 蓮沼哲哉
(人間発達文化学類/スポーツ社会学)
公開日:2017.11.27
 2020年に東京オリンピックが開催されますが、福島県においても野球・ソフトボールの競技が行われます。
 今回のラボ訪問は、スポーツを通じて地域の活性化につなげたいと考えている、人間発達文化学類の蓮沼哲哉講師にお話を伺ってきました。スポーツを「する・観る」だけではなく、違った形で参加する方法も教えていただきました。ひょっとしたらその方法で東京オリンピックに関わることもできるかもしれません。是非、参考にしてみてください。
**********************************************************

■ 地域スポーツの活性化で好循環をつくりたい

Q 先生の専門分野と研究内容を教えてください。
A 学問でいうとスポーツ社会学といって、今はスポーツと地域を結びつける授業を行っており、特に地域にあるスポーツクラブの発展について研究しています。他にも、2020年に東京オリンピックが開催されるので、震災のあった福島にオリンピックがもたらす効果や影響等、オリンピック関連から波及した研究も進めています。

Q 地域にあるスポーツクラブというとスポーツ少年団のようなものでしょうか?
A スポーツ少年団とは違い、総合型地域スポーツクラブは小学生から高齢者・障害者まで多世代を対象としたクラブを地域住民が主体となって運営する団体です。季節によって異なる種目のスポーツができることも、総合型スポーツクラブの魅力です。ドイツやヨーロッパではこういったクラブが多く、地域住民も巻き込んで交流することで人が育つと考えられています。日本でも20年程前から取り組みが行われていて、スポーツの普及とトップスポーツ選手の育成といった波及効果が考えられますが、日本ではスポーツ少年団のような単一世代のクラブが多いので、なかなか浸透しません。総合型地域スポーツクラブの発展には行政の後押しと地域住民の協力が必要です。
 例えば、学校の部活動はその時赴任した先生によって指導方法が変わってしまいます。しかし地域に良い指導者が根付いていれば、安定した指導力で選手の年代別の実力にムラもなくなり、トップ選手が育成されやすい環境ができます。選手が大会へ出場すれば地域住民も嬉しいし、応援するサポーターも増えますよね。またトップ選手が練習のために故郷に帰省し、その際に後輩とふれあう機会をとおして、指導者として戻ってくるという好循環が生まれれば、地域の強みとしてアピールでき、地域の活性化にもつながります。こういった好循環を福島県内にもつくっていきたいですし、そのために地域の方とも一緒に取り組んでいけたらいいなと思っています。
 私は福島でトライアスロンのクラブチームをつくり、地元で一貫して指導・練習するという活動をしています。総合型地域スポーツクラブとは違いますが、地域の応援者や協賛してくれる方を募って活動しており、いずれはチームの中からオリンピックに出場するようなトップ選手を輩出したいと思っています。

◇トライアスロンアカデミー福島 https://www.triathlon-afukushima.com/


Q なぜトライアスロンを始めようと思ったのですか?
A 高校までは野球をやっていたんです。野球は団体スポーツで上には上がいることを知ったので、大学でも野球でレギュラーになれるのか、といった疑問がありました。そこで他の競技に挑戦すればもっと上を目指せるのではないかと思ったんです。運動する人としない人ってはっきり分かれますし、運動する人でも1つの種目に取り組む方がほとんどです。20年前、トライアスロンを始めた当時はマイナー競技でしたが、1つの競技の中でスイム・バイク・ランと3つの種目を行うところに魅力を感じました。

Q 多種目のメリットは何でしょうか?
A 子どものうちに多種目を行えば、バランスが良く、怪我のしにくい体作りができますし、いろんな筋肉を使うので局所的に疲労をおこすこともなくなると思います。個人的に道具を使う競技が好きなのですが、道具のことを理解していないと負けてしまいますし、自分で道具を整備することで「もの」を大切にする心も養われます。大人になると道具の価値が分かるようになり、良い道具を揃えて競技に臨むことができるのでそこも楽しみの一つです。
 また、トライアスロンはレース時間も距離も長いのでペース配分がとても重要です。若い人の方が体力はあるので有利と思われがちですが、長距離で持久力が必要となると、ある程度経験を積まれた40~50代の方が強いです。年齢を重ねるごとに楽しくなるスポーツです。まさに生涯スポーツですね。


■ 福島県民にこそオリンピックを体感してほしい


Q 研究の目標はなんでしょう?
A スポーツで盛り上がった際の成果・波及効果を研究していますが、目下の目標は、オリンピックが開催されることで、地域の発展、経済、選手の育成などにどのように還元されるのか(成果)、波及効果があるのか、ということを調べることでしょうか。
 研究となると、どうしてもフィールドワークになってしまうので、研究の成果をどのように還元していくか、イベントを行った時にアンケート調査を行い現場の声をどれだけフィードバックできるか考えています。2020年の東京オリンピックでは、復興五輪ということで福島県内でも野球とソフトの試合が行われます。しかしそのことを知っているのは一部の人だけで福島県内でも盛り上がっているとは言えません。世界最大のスポーツの祭典が福島で行われるので、この機会にスポーツに対する県民の関心を高めていきたいですし、オリンピック開催による福島県への影響も調べたいので、それを研究にどのように結びつけていくか模索中です。

Q 県民の関心を高めるとは、「オリンピックが楽しみ」や「応援したい」といった声を増やしていくということでしょうか?
A そうですね。抽象的になってしまうのでどのように具体化するのかが課題です。またオリンピック開催によって、負の遺産といわれるオリンピック後に使用されない施設が増えるといった意見もあります。開催がゴールではなく、その後、地域にどのように影響するかを見据えて動いていきたいです。今年の世界選手権前にトライアスロンU23日本代表の合宿を北塩原村で行いました。合宿誘致によって地域住民がどのように感じ、これからどのように関わっていくのかを調べています。今後オリンピックの試合も開催されることで、福島県にも国際試合ができる施設があるということを多くの人に知ってもらう良い機会になると思います。もちろん県外の方々にアピールすることも大事ですが、オリンピックを身近に感じることができる貴重な機会なので県民の皆さんに興味をもってもらい積極的に関わってほしいです。

Q 元からスポーツが好きな方は興味があると思いますが、運動が苦手な方や県民にもっと興味をもってもらうために行っていることはありますか?
A スポーツといっても「する・観る・支える」と様々な参加の仕方があります。スポーツをする人、試合観戦が好きな人、競技を支える人という意味です。うつくしまスポーツルーターズというスポーツボランティアを派遣する機関があるのですが、そこでオリンピックに向けてボランティア研修会を行っています。スポーツボランティアに参加してみたいけどどうしていいか分からない、実際に参加してみたけど内容が分からず苦労した、という声が多くあります。そこではスポーツボランティアの中身について研修を行っています。
 今年は県内5箇所で研修会が行われ、約300人の方が参加されました。研修を受けると、日本全国で有効なスポーツボランティアのライセンスを取得することができ、他の地域でもボランティア参加する際に有効です。研修の回数を重ねるごとに上級ボランティアの資格が取得でき、ボランティア指導員として活動することもできます。


◇うつくしまスポーツルーターズ http://www.rooters.jp/

■ 大震災をきっかけに目指した大学教員

Q 以前は高校教員だったと伺いましたが、なぜ大学教員になったのですか?
A 東日本大震災が発生したとき、浪江町の高校で体育教員として勤務していました。震災後、原発の影響で避難を余儀なくされ、環境も変わり当時指導していた生徒が翌年のインターハイに出場することができませんでした。もしインターハイに出場できていたらと考えることがあり、もっと生徒達をサポートしたいとの気持ちが強くなりましたが、高校教員を務めながら活動するには限界がありました。そこで県からの派遣で福島大学大学院人間発達文化研究科へ入学し、卒業後、たまたまスポーツ社会学の教員公募を行っていて、声をかけていただいたのがきっかけです。

Q 福島大学の印象は大学院生の頃と勤務後で変わりましたか?
A 大学院生として通っていた頃は、福島大学はおとなしい学生が多いなと思っていました。教員になってからは真面目な学生が多いと感じます。ただ関東の学生と比べるとアピール力が弱いのかなと思います。優しく一生懸命で真面目に物事に取り組むことができるので、もっと自分をアピールしていってほしいです。

Q 福島大学でやりたいことや目標はありますか?
A トライアスロン部を立ち上げたいです。福島大学というと陸上競技が有名ですが、そのように福島大学を拠点としてトライアスロンを全国に広めていきたいです。その中でトップ選手を輩出することができれば、福島大学に憧れをもってきてくれる生徒もでてくると思います。文武両道のアスリートを育成し、ぜひオリンピアンになって羽ばたいてほしいです。体育の分野は生徒の長所を生かすことが大事だと思いますので、これからは他の体育の先生方と連携してトップ選手の育成や活躍のアピールに力を入れていきたいです。

蓮沼先生プロジェクト研究所
https://fukushima-sport-communitiy.jimdo.com/

蓮沼先生のこれまでの研究業績はこちら
https://search.adb.fukushima-u.ac.jp/Profiles/1/0000099/profile.html

************************************************************
 土日も忙しく働いているという蓮沼先生。もし半日でも休みがあればお子さんと遊ぶそうです。「夢は子供をオリンピック選手にすること。私は指導者として関われたらいいですね。」と夢を語ってくださいました。いつか実現することを楽しみにしています。