「子どもたちの笑顔と砂遊びにみせられて」vol.15 宗形潤子(総合教育研究センター(2019年4月より学校臨床支援センター)/教育実践学)
公開日:2018.3.9
小学校に入学したときのことを覚えていますか?新しい制服を着て、ピカピカのランドセルを背負って、ドキドキしながら校門をくぐりました。
今回のラボ訪問は、小学校入門期の子どもたちの居場所作りや砂遊びが子どもたちにもたらす効果について研究を行っている、宗形潤子准教授にお話を伺ってきました。
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■ 学校は子どもの居場所
Q 先生の専門分野と研究内容について教えてください。
A 専門分野は教育実践学です。特に、小学校に入学して間もない子どもたちがどのように居場所を見つけるのか、子どもたちが主体的に学ぶとはどういうことかについて研究しています。その中でも私は砂遊びにすごく関心があって、小学校入門期の子どもたちが砂遊びを通して思い切り遊ぶ楽しさ、仲間との協力、そして、学校ってどんなところ、学校で学ぶとは、ということを体験的に学ぶことができるのではと考え研究しています。
Q 居場所づくりが苦手な子だけではなく、全員を対象としているのでしょうか?
A 「小1プロブレム」と言われる、小学校入学して間もない子どもたちがなかなか学校に適応できないといった問題があります。多くの子どもにとって新しい環境と新しい先生、学校によっては友達がいない環境の中で、自分らしさを発揮し、心を開くことは難しいように思います。小学校で最初に求められがちな、席にずっと座って学ぶ、決められた時間の中で効率よく行動することといった規律面だけでなく、子どもたち一人ひとりにとって学校が自分の居場所と感じることができることが重要だと考えています。
■ ずっと教える立場でいたい
Q 前職は小学校教諭だったそうですが、大学教員になったきっかけは何でしょうか?
A 子どもの頃から小学校の先生になりたいと思っていて、その夢がそのまま実現したんです。先生が好きで友達のように慕っていて、自分にとっては身近な存在だったので、仕事としてイメージしやすかったのが理由です。大学教員になるきっかけは「授業する立場でいたかった」という思いが1番大きいです。小学校でもだんだんと管理職に就く立場になった時、対象が小学生でも大学生でも授業をするというところに身を置いていることで先生方の悩みに向き合えるんじゃないかな、と思いました。
元々、福島大学修士課程に通っていて、当時の修士論文指導をしていただいた先生から「こんなのがあるよ」と紹介していただいたことがきっかけです。福島県の教員から大学に移ってくるときはすごく悩みました。今後、管理職になって教師を育てることも自分の責任の一つだと思っていたので。でも悩んでいるときに、「子どもに携わることではどこの世界にいても同じだし、これから先生になりたいという子と出会って経験を伝えていくことはすごく大事なことだと思うよ。」と先輩の先生方から背中を押されて、やってみようと思いました。
Q 小学校と大学の違いについて感じたことはありますか?
A 大学は、小学校と比べると教室も大きく人数もすごく多いので、最初は私の問いかけが学生に響いているか不安でした。最近は、学生をなるべく名前で呼ぶようにしたり、学生が書いてくれる感想を参考にして授業に反映してみたり、そうすると伝わっているなと実感として分かってきたので、すごく面白いです。
Q 大学で主に行っていることは何でしょう?
A いろんな学校に伺って、授業実践について先生方と相談しながら、目指す授業を実現するために何ができるかを一緒に考えています。通年で関わることもあれば、単発で授業を見せてもらうこともあります。あとは先生方の研究会に呼ばれて、話をする機会もあります。加えて、夏に1日行う研修講座、通年で行う研修講座も大切に考え進めています。
Q 通年で関わっていると変化も感じますか?
A 感じます。子どもも先生も両方変わりますし、成長していることが伝わってきます。例えば悩みをお持ちの先生に対しては、一見するとあんまり授業に参加していなそうな生徒を中心に私も一緒に授業に参加させていただき、気付いたことを先生に伝えます。もちろん、担任の先生の方が子どもたちのことはよく理解されていますが、学級には30人以上の子どもたちがいるため、気付きにくいこともあります。その子の行動を先生に伝え、行動の理由を一緒に考えることで、先生の生徒へ対するアプローチ方法が変化したり、それに伴って子どもたちが変化していったりすることもあります。また、周りの子どもたちが変わっていくこともあります。無理に型に収めようとするのではなく、その子の思いを尊重することが、学級全体が変わっていく大きなきっかけとなることが多いようです。
子どもも大人も言動には理由があって、人それぞれの事情があり、考えも異なるので、考えを押しつけるよりも相手を理解しようとすることが大事だなと思います。これは小学生や大学生に関わらず共通して感じることです。
■ 子どもの遊び場は子どもの成長の場
Q なぜ砂遊びを研究しようと思ったのですか?
A 砂に関心が生まれたのは東日本大震災後で、私は附属小学校で震災直後の1年生の担任をしていました。原発事故の影響で屋外活動が制限され砂遊びもできなくなり、砂は触ってはいけないものになってしまいました。以前は普通にできていたことができなくなった不安があり、附属小では砂場の砂を入れ替え、放射線量を計り、保護者に安全だと説明して、砂遊びをできるようにしました。すると入学時はすごくお利口で、子どもらしい自己主張があまりなかった子どもたちが、砂遊びを始めたらどんどん変わっていって、自分の思いを口に出し、自己主張をするようになりました。
その様子を見て、この時期の子どもたちが遊びの中で自己実現をしていくことはすごく大事なことだと実感し、それから砂に注目するようになりました。当時、東北大学の博士課程後期に通っていて、指導いただいた先生に、ある時、何を研究したいのかと聞かれて、子どもの砂遊びについて研究したいと言ったんです。先生から「砂遊びはみんな体験しているし価値があると思っているけど、それを研究にすることは難しい。でもすごく良い視点だと思うよ。」と言ってもらえて、砂遊びについて突き詰めてみようと考えるようになりました。
Q 福島SAND-STORYに参加するきっかけは?
A 以前福島大学にいた先生が同志社大学に勤務していて、その先生に私が砂遊びについて研究していると話したら、SAND-STORY代表理事の笠間先生も同志社大学にいると教えていただいたんです。笠間先生は私が見つけた数少ない砂遊びについての文献の著者で、紹介してほしいとお願いして、福島で開催された砂のイベントでお会いしました。すでにSAND-STORYはできていたのですが、これからNPO法人にするという話を聞いて、是非参加させてほしいとお願いしたのが始まりです。
Q 活動内容について教えてください。
A イベントの開催、幼児教育や小学校教育に関わる先生方の研修会、小学校で生活科の授業のお手伝い、大人のサンドアートもあります。イベントにおいては、子どもたちが砂場で遊んでいる間はボランティアの学生が子どもたちと関わりますので、その間にお母さんの悩み相談をする等、活動内容は様々です。震災後、福島県内では表土の入れ替えによって校庭と同じ砂を入れている砂場もあるので、砂を入れ替える活動もしています。砂が変わると、今までは掘るだけだったのが、砂で造形する、泥団子を作る、といったように遊び方も変わるので、その変化の様子を見ているのも楽しいです。
私もサンドアートやるんですけど、面白いですよ。以前、四季の里で開催したサンドアートフェスティバルでスパナを作ったんです。東京都杉並区で行ったイベントではラピュタのロボット兵を作りました。過去には、サンドバーという砂場とバーを併設して、大人が砂の上でのんびりできるイベントも開催していました。私も参加したのですが、砂の中に足を入れているだけで気持ちよくて、またこんなイベントをやりたいなと思っています。2018年も様々なイベントを開催する予定なので、ぜひたくさんの方に来て欲しいですね。
福島SAND-STORY HP https://www.fukushima-sand-story.com/
Q 先生の趣味(好きなこと)は何ですか?
A 旅行が好きで、年に1回くらい海外に行きます。オランダにはもう一度行きたいなと思っています。オランダ独特の空の色をもう一度見たいなと思っています。
あとはお菓子作りが好きで、焼き菓子をよく作ります。使う材料によって味が変わるので、海外旅行にいったときはバターやナッツを大量に買うこともあります。同じレシピをいろんな材料で作ってみて、自分のお気に入りの味を見つけるんです。
宗形先生のこれまでの研究実績はこちら https://search.adb.fukushima-u.ac.jp/Profiles/1/0000062/profile.html
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宗形先生から、これから教員を目指す学生に向けてメッセージをいただきました。
「大学進学は人生の方向性を決めるときで、漠然とした夢が現実に近づいてくるときです。そこで将来を決めるのも良いですが、他の選択肢があればチャレンジしてみるのもいいと思います。何年か寄り道しても頑張れば先生になれますし、寄り道したことがその人にとって意味のある大きな経験になると思います。」