「福島県とロボット産業」vol.18 高橋隆行(共生システム理工学類/ロボット工学、制御工学)
公開日:2018.10.4
ロボット技術は格段に向上し、私たちの身の回りにもメカトロニクス(機械工学、電気工学、電子工学、情報工学の知識・技術を融合したもの)製品が増えてきました。
今回は「実際に動くロボット」を基盤とした研究活動をされている共生システム理工学類の高橋隆行教授にお話を伺ってきました。
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■ 「役に立つロボットを作る」
Q 先生の経歴を教えてください。
A 福島大学に来る前は東北大学の工学部にいました。東北大学の制御の研究室で修士課程を修了して、助手になり、助手をやりながら論文を書いてドクターを取りました。その時にロボットの研究室に移りました。そこからずっとロボットです。
Q 福島大学に来られたきっかけは?
A 福島大学に理工ができるときに声をかけていただきました。「来ないか?」って。それで、面白そうだと思ってきました。
Q 東北大学にいたころと研究内容は同じですか。
A かなり違いますね。人支援ロボットは実は東北大学でやっていたものを少し引き継いでいるところはありますが、内容は随分違います。
Q 福島大学の印象はどうですか。
A やっぱり、東北大学と比べれば(研究)環境はちょっと残念かな…。
でも福島県って面白い県で、例えば宮城県だとロボットを一緒に作ってくれる企業を探すのはすごく大変なんですが、福島にはあちこちにあります。福島県は工業出荷額で見ると東北のトップで製造業の集積がすごく多い県です。だから、技術力を持った中小企業が結構あって、かつ「変なことをやってみたい」という面白い社長が多いですね。仲間を探すのは楽です。
私はいま、研究スタイルとして、産学連携みたいなことを一生懸命やっていますけど、産学連携がしたかったわけではなく、産学連携をせざるを得なかったという…。
東北大学だと、工学部の中に工場があり実験に必要なものが全部作れます。技官さんもいて、図面を出せば作ってくれます。ここはそれができないので、企業さんと一緒に作ることをしないといけない。そのためこちらに来て、最初の一年間は一週間に何遍も企業回りをしました。そこで作ったいくつかのコネクションがいまもいきていますね。
いまは理工学類の機械加工室に技官さんが入られたので、いろんなことができるようになりましたが、それでもまだできることは限られているので、水中ロボットなどは外と連携しています。
Q 将来的な研究の目標はありますか。
A 基本的にうちの研究室の研究スタイルは「役に立つロボットを作りましょう」です。
研究のための研究じゃなくて、何か役に立つ。それは人間の生活でもいいし、動物のためでもいいし、地球環境でもいいですけど、役に立つロボット全体を作り上げるということですね。
研究スタイルとして、要素技術に特化してガーッとやる方法もあります。そのほうが研究としてはやりやすいかもしれないけど、私のところは、むしろ、あえて広く浅く、です。もちろん、研究としての最低限の深さは必要ですが。例えば、あるロボットを作りましょうとなった時、これを作り上げるためにはこういうものとこういうものが必要だとなると、買って済むものは買ってきちゃいましょう。新しく作らなきゃダメというものは研究テーマとして生まれていく。そんなわけで、扱うテーマは広くなっていきます。
私の研究室の研究テーマのひとつは水中ロボットですが、実際につくるためには、たとえば浮力調整器などを開発するわけですよね。それからパイプを使って土をどうやって取るかという話も必要だし、通信の話も、超音波の話もするわけですよね。なんでも屋さんみたいですよね。
ロボット全体をマネージメントできる研究室って実は全国でもそんなにありません。要素技術に特化したところが多いです。
ロボット全体を企画して製作し、形になったものを試験して、検証するスタイルなので学生たちにはいろんな知識を要求しますから大変だと思います。勉強になると思いますが。
Q 通信とか材料とかいろんな知識が必要になってきますね。
A ロボットそのものはなかなか商売にはなりません。鉄腕アトムは仮に作ってもきっと売れない。誰も買えない。一体何十億円するのでしょう。
でも鉄腕アトムを作り上げるために必要な技術は、例えば工作機械や自動車を高度化したりということに応用できるわけですよね。
技術開発はなんでもかんでも手当たり次第にやるわけではなく、ある種の方向性、こっちの方向に向かおうよという道標が必要だと思います。
鉄腕アトムを作ろうよとなると、じゃあどういう方向に技術を発展させたら良いのかが見えてくる。
その途中で生まれた技術がいろんなものになっていく。それが最終的には、私がロボット研究をやっていることの社会的な意味なのかなと思います。
■ 自宅に実験室!驚きの少年時代
Q 先生は小さいころからロボットがお好きでしたか。
A 好きでしたね。というか、理科全般が。小学校の時、自宅に化学の実験室を持っていました。自分の部屋の一部を実験室にして。当時、親に泣いてねだったのが硫酸でした。
化学実験のテキスト、その本どこにやっちゃったのかなぁ…どこかにあると思うんだけど。多分大学の化学実験の指導書だったんですね。それを手に入れて、片っ端から実験してました。
化学薬品は部屋の棚にバーッと並んでいました。高校の化学実験室よりもあったんじゃないですかね。面白かったのは小学校に同じ趣味の同級生が一人いて、やっぱり自宅に化学実験室を持っていて「えぇ~」って(笑)。
Q 先生のご出身はどちらですか。
A 埼玉です。いまの話は新潟です。親の転勤の都合で一年半くらい新潟にいました。中学校の直前にまた埼玉に戻りました。
中学校の時はもうほとんど化学の実験はしていなかったかな。化学も好きでしたが、そのころは電気にも興味がありました。
そのきっかけも新潟にいた時でした。近所に小さな電器屋さんがあったんですね。いわゆる街の電器屋さん。そこは普通の電器屋さんプラス模型屋さんで、そこにおにいちゃんがひとりいて、こっちがそういうのが好きだってわかると、いろいろ教えてくれるんですよ。小学生には刺激的ですよね。それで私の興味は化学から電気に移っていきました。
これはちょっと生意気ですが、もう電気と化学は自分でやっちゃったので「もういいや」となって、大学では機械に行きました。
Q いまのご趣味は。
A 学生たちと一緒にやっているのは、スキーです。実はスキーを始めたのは52歳からなので4、5年くらい前。あとは釣りに行きますかね。週2回くらい運動がてら水泳もやっています。
化学はさすがにもうやめちゃいましたけど、電気は仕事兼趣味。逆かな。趣味兼仕事。
研究とプライベートの境目はないかもしれませんね。ないっていうか、そもそもこの職業って24時間、仕事。「仕事が終わったら違う私」ではないですよね。でも、仕事をやっていれば半分趣味をやっているので、そういう意味では楽しいのかもしれませんね。あんまり研究でストレスが溜まるっていうのはないです。元々ストレスが溜まりにくいのかもしれませんけど、あんまりくよくよしない。
■ 福島県をロボット集積地へ
Q いまの学生の印象はどうですか。
A いろんな視点がありますが、基本的には本学の学生、あるいはうちの研究室に限るのかもしれないけど、真面目ですね。真面目っていうとニュアンスが微妙に違ってきますが、いまの学生たちはバブルを知らないんですよね。そうすると、生まれた時から世の中暗かったでしょう。私は高度経済成長期真っ只中だったので、物心ついた頃は家の周りで次々とビルが建って、テレビでは鉄腕アトムが放映されていて、そして幼稚園だったかな、自宅にテレビが初めて来たのを覚えています。次々といろいろなものが劇的に変わっていくというのを体験している世代です。そうすると、将来に対して幻想かもしれないけど夢みたいなものがあるんですよね。そういう意味では無鉄砲というかそういう部分があります。
いまの学生さんたちはすごくコンサバ(保守的)なんですよ。だから将来自分はきっと大統領になるぞなどという夢は抱かない。非常に堅実的。もっとハチャメチャで良いんじゃないかなと思います。
Q でも先生の研究室の学生さんはいろんなことをやっているので、将来活躍できそうですね。
A 題材はいっぱい転がっているので学生のやる気さえあれば。
実際に企業さんから話を聞くと、メカトロの技術屋さんは欲しいそうです。メカ、電気、それからソフトウェアと、いまはほとんどの機械がメカトロ機械なので、それが全部わかっている人が欲しいんですよね。求められている技術屋さんを育てるには、ロボットは良い教材です。
Q 今後のご予定は?
A 福島県ではロボットテストフィールドがいよいよ動きだします。私もそれに関わっていますし、福島県でロボット産業を立ち上げようということでふくしまロボット産業推進協議会の会長を仰せつかっています。なんとか形にしたいですね。
ロボットそのものはなかなか産業にならないと(残念ではありますが)私は思っています。でも、それに至るプロセスの過程でいろいろな産業が生まれるし、その方向に向いた企業さんが集積されると結局ロボットの集積地になるのかな、いつか突然こうバッとね。そういう底力みたいなものをためる作業、それをしたい。いままで研究室でやっている研究と方向性がまったく同じベクトルです。
高橋先生のこれまでの研究実績はこちら https://search.adb.fukushima-u.ac.jp/Profiles/2/0000161/profile.html
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ロボットを作る過程で生まれた技術が活用され、新たに別のものが生まれる。まるで一輪の花からたくさんの種が撒かれるような、素敵なサイクルですね。
学生のみなさんもそうではないみなさんも、もっとハチャメチャに、大きな夢を抱いて進んでいきましょう!