「先生の学びが生徒の学びを変える」vol.25 坂本篤史(人間発達文化学類/授業研究、教師論)
公開日:2019.11.25
授業中、先生の話が面白くて時間があっという間に感じることや、説明が理解出来て目から鱗が落ちる経験、皆さん一度はありますよね?いつの時代も先生たちは忙しい中、子どもたちの新たな能力を育てていくため頑張り続けています。
今回のラボ訪問は、実践に基づく学校の先生の学びについて研究を行っている、人間発達文化学類の坂本篤史准教授からお話を伺ってきました。
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■ 「教師の学び」へのきっかけ

Q 先生の研究内容や専門分野について教えてください。
A 博士課程、学部の時から一貫してやっているのは学校の先生の学びの研究です。教育学というと普通は子どもの学びの研究、と思われることが多いです。それは当然なのですが、子どもの学びをより良くするためには、子どもに教える先生の学びが重要で、その先生の学びというのがどういう風にして起きるのかということを調べています。
 それから、どうしたら先生の学びを促進することが出来るのか、そもそも先生の学びとはどういうものなのか、というところなど広く捉えて研究しています。

Q どういった経緯で今の研究をはじめたのですか?
A 一番印象に残っているのは、学部時代に漠然とですが「学校の先生の学びを研究したい」とゼミの先生に相談をして、紹介された学校にアポイントメントを取って行ったときのことです。ちょうどその学校で授業研究会があったので交ぜていただいて、ベテランのとても力量のある男性の先生の授業をすごいなあと思ってみていました。そのときに一生懸命記録を取ろうと思ったのですが、何を見ていいのか、何を記録していいのか分かりませんでした。授業後に先生方の振り返りの会にも交ぜていただいたのですが、周りの先生方が何を喋っているのかもよく分かりませんでした。「授業でやったことがこういう風に子どもの学びに繋がっていって、そうだとすると、あの場面ではもっとこういう風にしても良かったかも」という話をしているところに全然ついていけなかったんです。

Q その先生の授業があまりにも上手く、思わず惹き込まれてしまったということですね。
A そうですね。授業の中で先生はどんなことを考え判断し、どういう風に切り返すのか、子どもに問いかけたり、あえて見守ったり、という様々な判断や行動に興味を持ちました。よく分からなかったところを分かるようになりたかったということが今の研究の一番のスタート地点です。教師の学びには前から興味を持っていて、研究テーマとしてそれをやろうと漠然と考えたことはありました。でも最初は何となく・・くらいだったんです。面白いなと思って惹き込まれていったのはこのときからですね。

Q 専門としている学校種はありますか?
A 特にこれというのはなく、初等・中等・高等教育と幅広く関わっています。
 大学の博士課程までずっと対象としてきたのは初等教育(小学校)です。学校の中での検証として、先生が個人でも集団単位としても、どの様に成長するのか?といったことに取り組んでいました。博士論文も小学校をテーマとして書きました。
 その後、3年間ほどは愛知県の私立大学に所属しながら、一方、学校法人の本部にも所属し中等教育研究部という部署におりました。そこは毎年、系列の中学校と高校から1名ずつ研究に来られた先生方が週2日、それぞれの所属学校で授業を行い、残りの3日間は大学で教材研究・授業作り、授業分析と省察を行う部署で、私はその先生達の研究支援をしていました。その時期は中学校や高校の先生とも関わり、一緒に授業を研究する機会が多くありました。
 その頃に、職場で共に研究支援を行った方が元小中学校の先生で、年齢は私よりずっと上ですが、長い間ご自身の授業の研究など様々なことに取り組んでこられた方がいました。私が大学で1つ授業を担当していたときに、その方が「先生方に授業研究を勧めるのだから自分もやってみたらどうか?」と仰られたので、確かにそうだと思って大学での授業15回を全部ビデオに撮ってもらい、毎回、一緒に振り返り、次回の授業を作ることを行いました。そのときに高等教育の授業研究に少し携わることと同時に、授業の難しさを肌で知ることができました。

Q 教科の専門などはありますか?
A よく聞かれるのですが専門教科は無いんです。特定の教科で研究を進めていくというスタイルもありますが、最初に関わったのが小学校でしたし、国語もあれば算数も、理科、社会、道徳も色々ありという形で何でも見させていただいていました。
 教科専門や教科教育の先生方は大学内の周りに沢山いらっしゃるので、私が自分の専門教科について言うのも何というか、かなり恐縮してしまう感じですね。


■ 教育現場のいろいろ

Q 児童・生徒の年齢や学校種による指導の違いはありますか?
A 私が学校の先生の学びを研究するということで比較的やり易かったのは、校内研修として授業研究会が行われていることです。小学校が一番盛んで現職研修の中でかなり中心的に行われています。中学校になると少し減り、高校になるとかなり減るといった状況です。
 中学校だと先生方が教科担当になるので、自分の教科のことは言えるけれども他の教科のことはなかなか言いづらいというところがあり、指導の前提が少し変わってきます。
 高校は授業研究の文化自体がそこまで盛んではないので、蓄積されてきた高校は高校ならではの文化と言うか、そういったことを見極めながら関わることになります。

Q 見極めというのは成績レベルという意味合いになりますか?
A レベルというか、高校だといわゆる偏差値というときもありますが、学校も全部同じでなく、どういう仕組みでどういうことをやってきたのか、小・中・高と学校毎に違うんです。
 例えば小学校だと、私が関わった中で一番小さい学校は最後、全校で3人でしたので1対1の授業になったりしました。30人の生徒に対しての授業と1対1の授業では違ってきますから、それぞれの環境で学べることは何なのか、より良い授業内容、理解度になるにはどうしたら良いかといったことを先生方と一緒に取り組むことになります。
 高校も学校によって規模が全然違います。それぞれの授業内容や理解度、生徒と先生との距離感、何となく学校を保っている雰囲気、地域との関わりや学校の歴史など様々です。特色を最大限考慮しつつ、知りうる情報も限られているのでそれらを考えて取り組むよう心掛けています。


■ 教育現場のこれから

Q 教育現場の変化についてはどうお感じですか?
A 先生方が変わってきたかどうかという話だと、これから年齢構成がだいぶ変わり新任の先生たちがとても多い状況になっていきます。最近は一旦退職されてから再任用で教育現場に戻ってくる方たちもいらっしゃいますが、福島県については採用枠自体が増えているので若返りがものすごいスピードで起こっていくのではないかと思います。
 前回の学習指導要領の改訂によって、授業中に何か発表したり、自分の考えを説明したり、人とグループで話したりといったことを比較的小さい頃からやってきた人たちが沢山先生になるわけです。それぞれ良さと難しさはありますが、授業での関わり方が少しずつ変わってくるだろうと思います。
 自分が大学生だった頃に比べれば、今の大学生は発表やグループでコミュニケーションを取るということにかなり抵抗が無くなってきているなと感じています。
 今度の学習指導要領の改訂に伴って、特に小学校の先生方には今までの時数が減らず、むしろ増えていますのでプラスアルファの負荷がかかっています。ただでさえ忙しいのがさらに忙しくなるので、各自治体・各学校でかなり工夫をしていますが、どう改善していくか、しっかり考えていかなければいけない問題です。

 どうやら日本だけでなく諸外国でも「カリキュラムオーバーロード」といって似たような問題は起きているようです。時代が経てば経つほど学ばなければいけないことは増えるので、もう溢れるぐらいのところにきています。
 今までやってきたことを見直し、学習内容の取捨選択を考えなければいけないフェーズ(段階)に入ってきていると思います。それを国レベルで取り組む必要はあるでしょうし、各学校の中でもやはり考えなければいけない状況になっています。そういったことがまたさらに忙しくなっている要因ではありますが、前向きに改善されていけば良いなと思います。




■ 仕事のお供

Q 先生の近くに一眼レフカメラが見えますね。お仕事用ですか?
A 仕事でどこかに行ったときや学会に行ったときに使うことが多いです。建物やきれいな場所があればそういった写真も撮ったりすることはあります。今、使っているミラーレス一眼のカメラは、長い間気に入って使っています。でも特に強いこだわりなどは無くてズームがどのぐらい出来るか、軽さやサイズなど撮りやすさで選んでいます。

Q 写真を使って授業の振り返り作業などもされるのですか?
A 記録と振り返りのために撮ることが中心ですが、授業研究の講師で赴く際は必ずカメラを持って行きます。先生方の許諾を得た上で撮らせていただき、それを後の講演の資料に入れるということをしています。
 授業の中で何が起きたかということを振り返るときに言葉で「こういう風でしたよね」ということは出来ますが、写真だととても伝わりやすく振り返りになり易いです。例えば「授業の冒頭では子どもたち、こういう表情していましたよね」と表情の情報が提示出来るので、そういう意味で使ったりすることがあります。
 それからクラスに何十人かいると、遠く離れている席の子の様子をみたいと思った時や、書き留めているノートの写真を撮りたいという時にはズーム機能を活用しています。
 いつも持っているので子どもたちにはカメラマンだと思われているときがありますね(笑)

坂本先生のこれまでの研究業績はこちら https://search.adb.fukushima-u.ac.jp/Profiles/1/0000064/profile.html


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福島に来た頃、地元の方から日本酒をいただく機会が時々あったそうです。それを少しずつ味わったりしているうちに、以前より日本酒を飲む機会が増えたそうです。「福島県のお酒はお米の味がしっかりしたものが多いと思う」と先生。
米どころ、そして多くの酒造があるこの土地で、お気に入りの銘柄をぜひ沢山見つけていただければ良いなと思いました。