「“木を見て森も見る”バイオマス」vol.27 小井土賢二(共生システム理工学類/反応工学、伝熱工学、エネルギー学)
公開日:2020.2.27
再生可能エネルギーの導入がすすむ昨今、バイオマスという言葉を聞いた事が無い人はいないのではと思います。では実際、どんなバイオマス資源を使って、どの様にエネルギー化が行われているのでしょう。 今回はバイオマス資源の利活用とエネルギー推進について研究している、共生システム理工学類の小井土賢二特任准教授から色々お話を伺いました。
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■ 地域環境にあわせた取組み

Q 先生の専門分野、研究内容について教えてください。
A 私の研究室では地域のバイオマスを用いた分散型エネルギーという、比較的小規模で、かつ様々な地域に分散するエネルギーの利用を対象としています。特にガス化などの技術による水素製造、熱・電気、バイオ燃料の製造を中心に研究を行っています。研究の一番大事なところと考えているのは、バイオマスというものをどのように使えば地域資源の一部として活用することが出来るか、その為にどんな課題を乗り越えていく必要があるか、ということです。
 技術的な側面としては、小規模な設備を対象としたガス化に注目して要素技術・周辺技術を開発すると同時に、ガス化に適した燃料はどんなものか、地域のなかで出てくるバイオマス資源のうちどんなものが使えるか、それらの燃料は混ぜたり出来るのか、どんな工夫が出来るかというところ、一つひとつが研究対象となります。
 他には環境と経済性、それぞれの側面から地域でのバイオマス利用というのが可能かどうかというのを評価し、一番の問題点は何なのかというところを洗い出してフィードバックします。その為の手段としてLCA(ライフサイクルアセスメント)を行っています。

Q 地域固有のバイオマスとのことですが、原料としては何を扱っていますか?
A 福島県内地域だと、一つは2011年の原発事故によって放出された放射性セシウムを含む木質バイオマスが対象になります。それ以外ではシイタケの菌床栽培で廃棄される廃菌床を主にガス化の燃料としてどう使えるかというところも調べています。
 また中通り地域では果樹園も多いので果樹の剪定枝も対象になります。果樹園では毎年必ず剪定作業をしなくてはいけません。大量の果樹剪定枝をどの様にエネルギー化出来るか、どういった利活用が出来るか、福島県としても課題とされていると伺っています。
 また、地域バイオマスの存在している形態自体にも特徴があります。地域バイオマスというのは比較的少ない量の資源が点在していて、いわゆる「薄く広く」存在すると言われています。したがって、小規模なプラントを分散的に設置して使うということが望ましいと考えています。大規模なバイオマスプラントですと、燃料をたくさん必要としますので、国産材以外にも海外産の木質ペレットやパームヤシ殻の輸入に頼らざるを得ない部分もあります。地域でバイオマス資源を活用するならば、大規模集中型のプラントよりも、ガス化という技術を使って小規模でかつ分散的に進めていくことになると思います。


■ むしろ上がる発電効率!

Q 放射性物質を含んだ木質バイオマスは放射性物質をどうやって取り除くのですか?
A 放射性セシウムを含む廃棄物の処理方法としては大きく分けて二通りの方法があると思います。減容化(※1)のプロセスの際に、放射性物質を飛ばすか、若しくは残渣(※2)に濃縮させるか、の二通りです。
 ※1 (げんようか) 廃棄物などの容積を減少させること
 ※2 (ざんさ) 減容化のあとに残った残りかす
 セシウムを飛ばして無くすには、主に塩化揮発という方法が取られ、飛ばして残った灰はコンクリートや盛土の材料として使われます。濃縮した灰は回収して中間貯蔵施設で保管されます。
 一方、セシウムを残渣に濃縮させるには、灰などとして残った残渣を鉱物などにして固化し、漏れないようにしてから地中に埋めます。私がやろうとしているのは後者の「濃縮させる技術」です。これは共生システム理工学類の大橋弘範先生と一緒に取り組んでいる研究になります。

Q 昨年、大橋先生を取材させていただいた時には、小井土先生のお名前が出ていらっしゃいました。
A 大橋先生は放射性物質が含まれる物質である、燃焼灰をセシウム鉱物(ポルサイト)として固めるという研究が専門です。私はその灰に至るところ、つまり木質をガス化して燃焼灰にするというところを行っています。灰をセシウム鉱物として固める時にセシウム化合物の添加剤を少し入れるのですが、ガス化する際、原料の方に添加しても結局灰になるので同じ事になり、原料に添加するとガス化の効率が27ポイントアップするという事が分かりました。
 一般的に、バイオマスに含まれている数%未満の微量な金属成分がガス化における触媒作用をもっていると知られています。先行研究でも炭酸カリウムや炭酸ナトリウムなどを木質に添加するとガス化が促進されるというのは分かっていたのですが、セシウム化合物を添加しておこなった例はほとんどありませんでした。福島の特化型のシステムとして今回、炭酸セシウムを添加しておこなったという事でガス化の促進も出来るし、しかもポルサイトというセシウム鉱物への変換も可能になっています。

Q 他にも研究していることはありますか?
A 私の所属は寄附講座なので直属の学生の配属は無いのですが、現在、共生システム理工学類の佐藤理夫先生の研究室の学生さんが5名いて、彼らの研究教育の部分は私が担当しています。5人にはそれぞれ違う研究テーマで研究してもらっていて、すべて地域バイオマスの導入にとって重要な研究です。
 放射性物質を含んだ木質バイオマスの研究や廃菌床の研究、桃の剪定枝の研究、そして他にはエリアンサスの研究があります。エリアンサスはいわゆる草のバイオマスであり、1年で3~4m近く伸びるイネ科の多年草のエネルギー作物です。温帯では1年に1度収穫可能です。
 農地や耕作放棄地などを利用して、エリアンサスを植えれば自然と成長してくれます。伸びたものはそのまま放っておけば立ち枯れしてくれるため、自然に乾燥したところを刈り取ります。粉砕したらそのまま原料として使えるので乾燥コストが不要です。耕作放棄地を利活用するとバイオマスが入手でき、原料の低コスト化に繋がります。そういったバイオマス原料を、実証プラントでは木質ペレットという固形燃料に成型してからガス化の燃料として使い、燃料特性を明らかにする研究をしています。
 また、木質ペレットをガス化の燃料として使った時のLCAをおこなっています。例えば、樹木を伐採し破砕、粉砕、乾燥してペレットとして成型します。そしてそれを燃料として使い、最後にその灰の埋め立て処理をする、いわゆる“ゆりかごから墓場まで”において、それぞれのプロセスで発生するCO2排出量など(インパクトカテゴリー)を全部積みあげていきます。
 樹木を伐採する時に使うチェーンソーや運搬時のトラックで軽油を使いますし、おが粉の乾燥やペレットにするための成型機などで電力を使いますが、電力を使うという事は、元々その電力を発電した発電所で使った化石燃料由来のCO2をそこで(間接的に)排出するということなので、そのCO2排出量のすべてを積み上げていくということになります。するとプロセスのどこで一番その負荷が大きいか、いわゆるホットスポットになっているのかが分かります。そういったところを優先的に改善していき、全体の排出量を下げていく研究です。

Q 再エネについて、企業の興味関心はどの様に感じていますか?
A 私が関わっている企業さんについては、初めからバイオマスのガス化をやりたい、燃料はペレットを考えている、だからその為に力を貸してほしい、という風に非常に積極的に来られていました。
 福島県内では、他にもとても研究熱心で積極的に取り組んでいらっしゃる企業さんもいらっしゃるので、わたしもそれに応えるために勉強させていただいていますし、本当にこの土地に来て良かったなと思いました。
 色々支援できますので興味を持たれたら一度相談に来ていただければ幸いです。


■ “流れ着いた”のは現場の声に近い研究

Q バイオマスの研究に興味を持ったきっかけは何ですか?
A 大学の学部生のとき、機械系の流体工学の研究室で“流れ”の不安定性の研究をしていました。修士課程に進んだ時に流れだけでは物足りなく感じ、反応を含む流れ、私の場合は水の中での燃焼だったのですが、燃焼器の中でどんな反応が起こり、それによってどのくらいの熱が出て、どういう風に伝わっていくかという研究で博士号を取得しました。
 その後は産総研のバイオマス研究センターでもう少し産業に近い方の研究をやろうと考えました。燃焼以外にもガス化という技術があって、実際にバイオマスを産業で使えそうだということでガス化の技術へシフトしてきました。だから気がついたらバイオマスに“流れ着いた”感じです。
 私の博士課程の修了式直前に東日本大震災が起きました。当時の民主党政権下では再生可能エネルギーによって発電した電気の固定価格買い取り制度が出来て、バイオマスエネルギーにもようやく光が当たる情勢になりました。それ以前はバイオマスというと自動車やトラックを走らせるためのバイオ燃料をつくる方が、メジャーでした。固定価格買い取り制度が出来てからはバイオマスを原料として電力や熱を作り、実際にそれを家庭や温浴施設などの場所で使うという地域分散型のエネルギー利用法へと社会的な風向きが変わってきました。

Q 福島大学にはどの様な経緯でいらっしゃったのですか?
A 2040年までに県内のエネルギーを100%再生エネルギーで賄う目標を掲げている福島県の方針を知っていたので、再エネ関係では有名な県という認識がありました。
 福島大学に来る前は東京理科大学理工学部に勤務して、ライフサイクル評価を行う研究室に所属して、ガス化からバイオ水素を作り、その水素を利用するためのシステム設計をおこなっていましたので、研究の評価の方に力点をおいて取り組んでいました。しかし、より現場の声に近い研究で地域のための貢献が出来るのではないか、それによって色々と経験を積んで、自分自身が勉強することが出来るのではないかと思い、ご縁もあって福島大学に赴任することになりました。


■ 芸術系の趣味とは


Q 休日はどの様にお過ごしですか?
A 今は子供が小さいので近くの公園で遊ばせたり、恐竜好きなのでいわき市の石炭化石館や水族館などに連れていったり家族で外出するのがほとんどです。
 子どもが生まれる前はオーケストラでフルートを演奏していました。フルートは高校生から始めてオーケストラは大学生からずっと続けています。でもこの一年ぐらいは年に1、2回の本番しかなく、あまり演奏出来ていないです。たまに本番があると、肺活量が減退していて現場では息が足りなくて、ゼイゼイいっています(笑)





Q お勧めの本などはありますか?
A 前に読んでいて好きだったのは「坂の上の雲」や「竜馬がゆく」など司馬遼太郎の歴史ものです。あとはフェルメールやモネが好きで美術系の本も読みます。特に「フェルメール隠された次元」は、作品から読み取れる事柄やその絵画を描かれた時の背景やエピソードなどが色々入っていて面白いです。新書や小説も最近は中々時間が作れませんが読んだりします。


小井土先生のこれまでの研究業績はこちら https://kkoido5.wixsite.com/biomass


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写真の様な美しい自然を後世にずっと残していくためにも、バイオマスエネルギーの更なる普及が望まれますね。 取材中、発電の仕組みで分からないところをホワイトボードを使って丁寧に説明して下さった小井土先生、誠にありがとうございました!